さっきからえらくご機嫌な光輝は、俺をゆっくり下へ下ろすと、今度はシャツのボタンをプチプチと外し始めた。
どうやら服まで脱がしてくれるつもりらしい。
現代でやると、どうしても小さい子供がママやパパに着替えさせてもらうイメージが浮かぶが、ゲームの悪役を思い出すと、偉そうに両手を水平にしてお付きの者にやらせているイメージへと変わる。

「……なんか悪役って冷静に考えれば子供だよな、やる事全部。運んで貰ったり身支度を整えたり……それって幼稚園とかで習う事じゃん。」

「確かにそうだね。……フフッ、子供か…………。俺がいないと何にもできない子供……いいな、それ。」

光輝は何にも良くない事を言いながら、俺の服のボタン全てを外すと、同じ様に自分の上着も素早く脱いだ。
すると目の前に晒されるのは、確かな筋肉で武装された光輝の上半身だ。

「……これ、もう一枚脱げそう。筋肉にそっくりの武装アーマーに見えるな。いいなぁ〜。」

「影太が俺の事、『チビでガリだと弱そうに見える』って言って、沢山食べさせてきたからじゃない?」

光輝の筋肉アーマーを剥がそうとして、ガリガリと鎖骨辺りを引っ掻いていると、光輝は俺の両肩を優しく撫でながら、俺の貧相で可哀想な上半身を凝視する。

「影太は変わらないね。全部。俺が汚らしい化物みたいな姿の時も、周りが騒ぐ様な外見になっても。俺はそれが……凄く……。」

「汚らしい化物……??……あぁ、もしかして出会った頃の事??」

光輝は確かにチビだったし、ボロボロだったし、だから不死の騎士団長に任命したのだが……実は外見を気にしていたのだろうか?

周りをあまり気にしないと思っていた光輝の、意外な一面!

それに驚きながら思い浮かんだのは、自分の外見を気にしている光輝に対し『ゾンビでもいいよな〜やっぱりゾンビ軍曹とかにする?』やら、『光輝は痩せてるから、技名に全部”スケルトン”つけようぜ。スケルトン・アタック〜!』とか言ってた記憶だ。

「…………。」

虐め待ったなし!
そんな状況を思い出し、血の気が引いた顔で黙っていると、光輝はどこか陶酔しているかの様な様子で、俺のズボンに手を掛ける。

「綺麗な時にだけ寄ってくる様なモノは、大事なモノじゃない。
そういう奴らって、結局何をしても目の奥に『欲』が見えるんだ。優しくするのは自分の欲を叶えるため。
『自慢できる様な友達が欲しい、彼氏が欲しい。』
『羨ましいって、周りに言われたい。』
『優しくしてあげてる自分を見て、好きになって!』……って。」

「へぇ〜。そういうモン?」

そんな『欲』を抱いてもらった事が皆無な俺には、ちょっと遠すぎて分からない話だと思った。
そのため、意識半分で聞きながら、ひたすら光輝の筋肉アーマーを睨みつけていると、光輝はクスクス笑いながらズボンをゆっくり下ろし始める。

「本当に辛い時には寄ってこない奴らは、こんなモンだよ。
────まぁ、でも弱っている時にだけ寄ってくる奴らは、もっとタチが悪いかもね。
『コイツの近くにいれば、自分は上でいられる、上手く使って得できる。』
『可哀想なヤツに声をかけてやった自分は凄いでしょう?そんな素晴らしい自分を褒めて!』
結局全員一緒なんだ。『人を使おう』としている点はさ。」

「?『使う』って、なんだか変な表現だな。」

ちょっと人に対して使うには変わった表現に首を傾げると、光輝は首を横に振りながら俺のズボンを全て下ろした。

「いいんだ、影太は考えなくて。要は、人間ってどうしようもない欲望の塊だって事だよ。
だから俺は、そんな奴らが御大層に並べる正義が……『正しい』とは思ってないんだ。」

「ふ〜ん?なんかよく分からないけど、ちょっと今の悪役っぽいセリフだよな。
俺のセリフ取るなよ、臣下のくせに。」

なんかかっこよさげなセリフが面白くなくて、チッ!舌打ちしてやると、光輝もズボンを脱ぐ。
お互いトランクス一枚という情けない格好になってしまい、俺はあまりの肉体の差にプライドがボッコボコと叩かれている気分を味わった。

これが噂の公開処刑……。
わざわざこの差を晒す必要……ある??

「俺も筋肉アーマー欲しい……。強そうな外見が欲しい……。」

「ん〜……俺はどんな姿でもいいけどね。ただガタイがいいと、いざという時、捕まえるのが大変そうだな。まぁ、その時はどんな手を使ってでも捕まえるから良いんだけど……。」

「??いざという時……。」

俺が光輝に捕まる場面を想像すると、光輝の食べているパンとかを強奪してベロベロバー!している姿が思い浮かぶ。
パンを盗られた光輝は、お気に入りのパンを奪われ大激怒!
直ぐに俺を追いかけてきて、貧相な肉体を持つ俺、一瞬で捕まる。
そして怒涛のお尻叩きと説教をされて、取り返したパンをムシャムシャ食べる光輝の横でワンワンなく俺の姿────……。

「────ぷひゃんっ!」

なんだかおかしくなって吹き出すと、光輝はニコニコしながら俺のトランクスへと手を伸ばした。