【5年後】

「……やっちゃったよな〜。」

自分の恥ずかしい過去を思い出して力が抜けてしまい、机に伏せる俺。
そしてそのまま、お〜いおいおい!と泣く俺の肩を誰かがポンポンと叩く。

「なるほどね〜。それが日野と影太の出会いなのか。ちょっと恥ずかしいな。俺はてっきり、生まれた時から家が隣同士とかの幼馴染的だと思っていた。」

そこまで興味なさそうに返事を返してきたのは、この【正木野高校】に入学してから仲良くなったクラスメイトの<中野 忠太(なかの ちゅうた)>だ。

中野はそれなりに整っている顔をしていて、女子ウケを意識したマッシュヘヤをしている、見た目は軽めな男だが、中身は大のゲームオタク。
そこで同じくゲームオタクな俺と仲良くなったという経緯がある。
俺はムクッ……と顔を上げ、机の上に置かれたゲーム雑誌を見つめながらため息をついた。

「当時流行っていた、勇者と魔王が出てくるゲームがあっただろ?【ドラゴン・ロード物語】。
孤独を抱えながら、世界を壊そうとする悪役の魔王<ロード>!
誰に批判されようが、自分の道をひたすら突き進むその姿は……か、か、か、カッコいい〜!!
やっぱりそんな勇者とか魔王が出てくるRPGゲームは最高だよな!胸が高鳴る!」

目の前に置かれているゲーム雑誌を掴み中野に見せつけてやると、中野は目を輝かせる。
そのゲーム雑誌には、まさにそんな正義と戦う悪役、勇者と魔王が出てくる新作ゲーム情報が載っていた。
俺はその雑誌を今度は自分に向けると、ドキドキワクワクと胸を高鳴らせて描かれている魔王のイラストを見つめる。

「世で言う当たり前の正義をぶっ壊す強さとか、迷わない所とか……本当に最高だよ。」

悪役はその強烈な思想と行動によって、見るものを惹きつける。  
ただ、俺の好きな悪役とは単純な『悪』ではない……キラキラと輝いて見えるだけの世界(ルビ)を憎むダークヒーローなのだ。
俺は、フッと魔王のイラストから目を逸らし、顔を上げて窓に映る自分の顔を見つめた。

俺、影太は本当に特徴のない外見をしていて、身長、体重はド平均。

顔は全てのパーツが大きすぎず小さすぎずの主張ゼロな顔立ちであるため、一度や二度会ったくらいでは『あれ?あの人誰だっけ?』と言われてしまう様な男だ。
更にそれに加えて、勉強もスポーツも平均……よりちょっと下という、残念なもので、人の印象に残らない事に拍車をかけた。

俺は窓に映る自分の顔を見て、大きなため息をついてしまう。

そんな自分と正反対の存在である、インパクト大な悪役様に憧れを持った俺は、小学生の時はとにかくアホ丸出しで悪役になろうと本気で思っていた。

だから自分の家の犬には『ケルベロス』という名前をつけ、自分の眷属だと主張したり、ただの散歩を『世界征服だぁぁぁ!!』とか言って走り回ったり……。
猫じゃらしを持って、そこら辺の雑草と戦ったりなどなど、もう本当に恥ずかしい思い出しか無い!

「それを光輝にも無理やり……ああぁぁぁぁ〜……!」

恥ずかしい思い出の数々を思い出して、もう一度机の上に突っ伏すと、中野は呆れた様な顔をしながら、ゲーム雑誌に目を通し始めた。

ここは部員数10名ほどの【ゲーム愛好会】の部室として使っている、小さな多目的室。
俺達の他にもチラホラと部員達がいるが、それぞれがそれぞれのゲームの話題に忙しく、俺が騒いでいても一切気にしない。
それを有り難く思いながら、その場で縮こまった。
そんなアホアホな俺だったが、自分一人でその恥ずかしいのが完結していれば良かったのだが、なんとそこで転校したてで何も知らない光輝を巻き込んだのだ。

『お前を配下にしてやる。』

『今日から俺についてこい!』

そんな無茶を言い、動揺している光輝を強引に付き合わせ始めたのが最初。
そうして、日々の意味不明のマイルールに、散々光輝は巻き込まれ続けて……大災難だったはずだ。

近所の野良犬に戦いを挑んで、二人揃ってボロボロに負ける事、数え切れないほど。
猫のウンコを中心にして、地面に魔法陣?らしき物を書いて祈るのは、ウンコを見つけ次第!
今思い出しても、やはり散々な思い出が蘇ってきたが、その時の光輝ときたら、オロオロしながらも真剣にやりだすから……。

「ブブッ──!!!」

連鎖して思い出す、まさにクソみたいな思い出に吹き出すと、中野がビクッ!としていたが、笑いが止まらない!

いやいや、ホント俺は何がしたかったんだよ!

そのまま笑いだす俺を見て、中野はジトッ〜とした目を向けてきたが、その後直ぐにゲーム雑誌に視線を戻し、突然「あ……。」と何かを見つけた様な声を出した。

「見てみろよ、コレ。このキャラ、日野にそっくりじゃね?うわぁ〜エグい程のイケメンキャラ。」

中野が指差す先には、それはそれは美しい容姿をした正義のヒーロー様が描かれていて……納得した俺は大きく頷いた。

以前はガリガリのチビスケだった光輝は、中学生に入った辺りからぐんぐんと背が伸び、あっという間に俺を追い抜いていくと、皮膚の状態も良くなっていく。
そうなってくると、今まで嫌悪丸出しだった同級生や先生達の態度も変わっていったが、更に身だしなみもキチンとし始めた光輝が輝く様なイケメンだと知るや否や、その態度は地球がひっくり返ったと思う程別物へと変化した。

今までガサガサの皮膚と出来物で腫れていた顔がすっかり綺麗になると、姿を現したのは白雪姫の様な色白のきめ細やかな肌と、外人顔負けのクッキリした目鼻立ち。
さらにスラリと長い手足に、これまた日本人離れした高身長としっかりとした筋肉がついていながら太くない肉体……と、パッと見ればどっかの漫画の王子様が出てきちゃった?と思うほど完璧な美を持った存在へと進化した光輝。
そりゃ〜周りが騒ぐのは当たり前だと誰もが思う。

「凄いよな……光輝は。今やキラキラ輝く主人公ポジションだもんな〜。」

中野の指し示す正義のヒーローは、剣を持ちカッコいいポーズを決めていた。

このキャラは今流行りの乙女ゲーム【ローズ・エンド・ギア】という、イケメンたちとのラブラブストーリーをメインとしたゲームなのだが、そのメイン攻略対象と瓜二つの光輝を思い浮かべる。