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「これは斬新かもしれない!」

俺は新しく配信スタートしたゲームをポチポチとやりながら、その面白さにのめり込んでいった。

主人公は異世界から転生したチート系主人公。
その主人公が、悪政を行っている王と王の側近達をザマァしていく作品なのだが……ヒロインの数が非常に多いのが、凄い所だと思った。

「悪役サイドの人間もヒロインにできるのか。主人公に惚れ込んだ悪役の相棒も、最後は相棒だった悪役を憎んで……。」

『彼と出会って、私はやっと目が覚めた!これからは、本当の正義のために戦う!!』

悪役の専属騎士であったヒロインが、主人公に跪いて忠誠を誓うシーン。
そのヒロインの顔が────唐突に光輝の顔に変わる。

『広い世界を知って、俺はやっと目が覚めた!今までよくも何も知らない俺を恥ずかしい遊びに巻き込んでくれたな!』

心底蔑む様な目で俺を見下ろす光輝。
その腕の中には……花園さんがいた。
花園さんはポロポロと泣きながら、光輝に抱きつき「貴方が『正しい』選択を選べて本当に良かった!」と言っている。

『正しい』選択。
それは、俺と光輝がそれぞれ自分らしくいられる場所にいる事を指す。

「……そうだよなぁ。いつまでもこのままじゃ駄目だもんな。」

俺達はこれからどんどん大人になっていき、色んなモノが変化していくだろう。
だから、いくらずっと一緒だったといえ、選ぶ答えは違うわけで……それを相手に合わせる事で自分の意見を失くしたら駄目って事だ。
ましてや、その変化のための機会を奪うのも、きっと『正しくない』……んだろうな。

「あ〜大人になるって難しい!」

ゲーム場面を切って、ベッドにゴロン!すると、頭に浮かんでくるのは、光輝とバカやった思い出ばかりだ。
その中でパッと浮かんできたのは、近所の川で遊んでいた時の事。
水魔法〜!なんて、アホな事をいいながら、飛び跳ねていると、ついうっかり足を滑らせ川へ落ちてしまった。

『……っ!?うわっ!!』

すると、そのまま流れる桃の様にどんぶらこっこ〜と流されていく俺を見て、光輝は尋常じゃないくらいパニックを起こす。

『影太!!』

そしてそのまま何の迷いなく飛び込んできて、仲良く二人で流されていき……直ぐに発見してくれた大人に助けてもらった。

『この大バカ野郎!!』

その後は父の本気の説教と喰らい、グスグス泣く俺の横で光輝も泣いていたのだが……なんだか怒られたから泣いているのではなかった様だ。
突然俺に抱きついてきて、大号泣し始める。

『こ、光輝……?』

オロオロする俺が名前を言えば、光輝は更に強く俺にしがみついてきて、大声で叫んだ。

『……っひ、一人になると思った……っ!!もう一人は嫌だ……嫌だよ……。』

そのままワンワンと無き続ける光輝を見て、流石の父もそれ以上怒ろうとせず、とりあえず今後は川へ近づくのを禁止!と言われ、今に至る。

「……きっと光輝は寂しいのが嫌いだ。だったら、なおさら俺だけと付き合ってちゃ駄目か。」

改めてそう思うと、これから少しづつ光輝は自分が寂しくない環境を作るべきだと考えた。
寂しいなんて思う暇がないくらい、沢山の人に囲まれて幸せで……そんなキラキラ輝く人生こそが『正しい』?

「『正しい』……か。」

『正しさ』というモノを考えると、どうしても思い浮かぶのは母の事で……続けて母が出ていった時、周りの人たちが言っていた事も思い出す。

『あんなに小さい子を置いて出ていくなんて……本当に最低の母親。』

『普通、子供は連れて行くもんよね〜。』

誰も彼もが母を『正しくないモノ』として扱い、俺に対して可哀想だ不憫だと気を使ってくれた。
でも、その『正しい』と『正しくない』は────……。


────ガチャッ!!!

思考に没頭していた意識は、扉が開く音によって中断される。
随分と乱暴に開けたのか、かなり大きな音がして、続けてドスドス!という走っている大きな足音が近づいてくる音に驚き固まった。

「────っ影太!!ただいま!!」

「あ、あぁ……お、おかえり……。」

部屋のドアが空いて、凄い勢いで入ってきた光輝に圧倒されて、引き気味で返事をすると、そのまま光輝はベッドに横たわる俺の腹に顔を埋めてくる。

「う、うひょ……??」

「あぁ〜……影太の匂い、久しぶり……。」

いや、つい数時間前……と言いたかったが、光輝がそのままスリスリ〜!と強く顔を擦り付けてきたので、笑ってしまって言えなかった。

「ひっひ〜ひっひっ!!!ヒョヒョ〜!!くっ……擽ったいっ!!!」

「影太、影太、影太、影太……。」

まるでペットの猫の子を呼ぶように、名前を連発してくる光輝は、そのままお腹から顔を離すと、今度は覆いかぶさる様に抱きしめてくる。
そしてそのまま首筋に顔を埋めて動きを止めてしまったので、いい子いい子と頭を撫でてやった。

「打ち上げはどうだった?」

「……楽しくなかった。」

顔を埋めたままボソッと呟かれ、首筋に掛かる息が擽ったい。
モゾモゾと動いてしまうと、嫌がっていると思ったのか、更に強く抱きしめてきた。

「どこに行ってきたんだ?ファミレスとか?」

「……うん。そう。その後はカラオケに行った。」

なんと、カラオケまで行ってきたとは……。勇者パーティーのコミュニケーション能力は凄まじい!
へぇ〜と感心しながら、フッ!と思い出したのは、俺とカラオケに行った時の光輝の様子だ。