「でも、元気ないから。何か嫌な事でもあった?
ほら、シロップ漬け食べなよ。影太が前、美味しいって言った時のと同じだよ。」
光輝は一旦俺のおデコから顔を離し、俺の手からシロップ漬けの器を取ると、そのまま中に入っているレモンの輪切りを一つ摘む。
そして『あ〜ん』する様に、俺の口元に近づけてくるので、条件反射の様に口を開けると、中に入ってきたのは、甘くて美味しいシロップの味とレモンの爽やかな酸味だ!
「う、うまぁ〜……!」
突然口の中に広がる甘味の味に、目を瞑って耐えていると、光輝からホッと息を吐き出す音が聞こえた。
「美味しくて良かった。もう気分は大丈夫?」
「あ、うんうん。いや、元々……。」
普通だったんだけど?
なんて答えていいか困り、フッと空松さんの方へ視線を向けると、空松さんは俺達から顔を背け、何もない壁の方を向いていた。
「?空松さん、何見てるんですか?」
「あ〜……いや、そのぉ〜……壁がな、ちょっとボロボロだな〜って……。そろそろ体育館の老朽化も深刻だから、学校に申告しなければな!
……ところで、お前らって昔から距離感が……その、おかしくない?」
ウオッホン!とわざとらしい咳をしながら、空松さんが聞いてきたので、俺と光輝はお互い目を見合わせる。
「そうですかね?でも、確かに普通の友達よりは距離が近いかも。光輝の親っていつもいないから、頻繁に泊まりあっていたんで……。兄弟みたいに育ったと言ってもいいかもしれません。」
光輝の両親はいつ行っても家にいなくて、夜もずっと一人だと聞いてから、頻繁に泊まりに行ったり、逆に家に泊まってもらったりしてきた。
流石に一度も見たことがない光輝の両親に疑問はあったが……。
『あ〜光輝君の両親なぁ……。』
父に光輝の両親の事を聞いた際に、苦虫を噛み締めた様な顔をしていたので、もしかして色々子供に聞かせたくない様な理由があったのかもしれないと察する。
だが俺としては、光輝と仲良くするのに両親の事は関係ないため、今の今まで詳しく聞いた事はなかった。
だから、光輝の両親に対する認識は『とりあえずいつも家にいなくて、忙しい弁護士の父ちゃんと母ちゃん』それくらいだ。
そんな日々の中、広い家に一人でいるのが寂しかったのか、仲良くなればなるほど、一緒に過ごす時間が長くなれば長くなるほど、光輝は結構な距離でくっついて来る様になり……今に至る。
だから、俺達の関係って、もしかしたら親友よりも兄弟に近いかもしれない。
むむ〜ん……と、世で言われる兄弟関係とやらを思い出していると、光輝の方は首を横に振った。
「違う。魔王と臣下。俺は不死の騎士団長。」
光輝が結構真面目に答えるモンだから、空松さんの目は点になる。
いやいや、そのネタは一般受けしないぞ〜?
「光輝、お外でそれは止めとけって。二人の時にな。」
「……うん、分かった。」
光輝が渋々返事を返した瞬間、離れた所で空松さんと光輝を呼ぶ声が聞こえ、二人はそのままそちらへ向かった。
どうやら相手チームの団体さんが来た事が、外からも聞こえ始めた黄色い声で分かる。
「……他校でも人気あるんだよな、光輝って。ホント凄いな、芸能人みたいだ。」
渋々外に繋がる扉の前に並んで、他校の団体さんを迎え入れる光輝を見て、その存在感が素直に凄いと思った。
しかしそのせいで、外では元からいたらしいウチの学校の女子生徒達と、応援する陣地を争う他校の女子生徒達の戦いが始まり、とてもうるさくなってしまう。
聞こえるのは、全部『日野君かっこいい!』『素敵〜!こっち向いて!』などなど、バスケの試合というより光輝を見に来たって感じの女の子達で、他の部員の人たちは総じて苦笑いしている様だ。
「もう、なんだかな〜……。日野には敵わないわ。」
「まぁ、仕方ねぇよ。あの面にあの実力だもんな〜。」
部員達は、それぞれ騒ぐ周囲を無視して試合に集中し始め、その後試合が開始されると、勿論一番活躍したのは、光輝だった。
大人数のマークをつけられようが、その全てを華麗に抜いていき、ゴールする姿は確かにカッコいい。
親友の活躍に熱くなり、気がつけばタオルを振って叫んでいた。
「うぉぉぉ〜!!光輝いいぞ!そこだっ!!頑張れ〜!!」
そんな声援に答えるように、光輝は次々とゴールを決めていき……試合はこちらの圧勝で終了したのだった。
◇◇
「日野〜今日、これから皆で打ち上げに行くんだけど、行かねぇか?」
「日野君、一緒に行こうよ〜♡皆、一番活躍したエース様を皆労いたいんだよ。」
「ホントすごかった〜。圧勝だもんね、試合!強豪相手にコレは快挙だよ!」
試合終了後、、真っ先に俺の所に来て、さっさと身支度を整え始めた光輝。
そんな光輝に向かい、先輩達やマネージャー達が一斉に声を掛けてくるが、光輝はそっけなく答えた。
「いかない。──さ、帰ろう。影太。」
俺の方を向いた光輝はニコニコしながら、空になったシロップ漬けのタッパと俺の座る場所に敷いてたクッションをバックに入れていく。
その姿を前にムワッ〜とした嫌な感じが漂い、全員が凄い形相で睨みつけた。
────俺を。
「あ、あのさ、光輝……。」
チクチクブスブス!と刺さる視線を受けながら、流石にまずいのでは?と思い、口を出そうとしたのだが、光輝は全然気にしてない様だ。
このまま俺のせいで孤立していっちゃったら、ちょっと良くない気が……。
オロオロしているのは俺だけで、気にせずそのまま帰ろうとした光輝が、俺の手を握りその場から去ろうとすると……。
「待って下さい!」
突然声が聞こえたので思わず立ち止まって振り向けば、そこにいたのは────さっき俺に話しかけてきた花園さんだった。
ほら、シロップ漬け食べなよ。影太が前、美味しいって言った時のと同じだよ。」
光輝は一旦俺のおデコから顔を離し、俺の手からシロップ漬けの器を取ると、そのまま中に入っているレモンの輪切りを一つ摘む。
そして『あ〜ん』する様に、俺の口元に近づけてくるので、条件反射の様に口を開けると、中に入ってきたのは、甘くて美味しいシロップの味とレモンの爽やかな酸味だ!
「う、うまぁ〜……!」
突然口の中に広がる甘味の味に、目を瞑って耐えていると、光輝からホッと息を吐き出す音が聞こえた。
「美味しくて良かった。もう気分は大丈夫?」
「あ、うんうん。いや、元々……。」
普通だったんだけど?
なんて答えていいか困り、フッと空松さんの方へ視線を向けると、空松さんは俺達から顔を背け、何もない壁の方を向いていた。
「?空松さん、何見てるんですか?」
「あ〜……いや、そのぉ〜……壁がな、ちょっとボロボロだな〜って……。そろそろ体育館の老朽化も深刻だから、学校に申告しなければな!
……ところで、お前らって昔から距離感が……その、おかしくない?」
ウオッホン!とわざとらしい咳をしながら、空松さんが聞いてきたので、俺と光輝はお互い目を見合わせる。
「そうですかね?でも、確かに普通の友達よりは距離が近いかも。光輝の親っていつもいないから、頻繁に泊まりあっていたんで……。兄弟みたいに育ったと言ってもいいかもしれません。」
光輝の両親はいつ行っても家にいなくて、夜もずっと一人だと聞いてから、頻繁に泊まりに行ったり、逆に家に泊まってもらったりしてきた。
流石に一度も見たことがない光輝の両親に疑問はあったが……。
『あ〜光輝君の両親なぁ……。』
父に光輝の両親の事を聞いた際に、苦虫を噛み締めた様な顔をしていたので、もしかして色々子供に聞かせたくない様な理由があったのかもしれないと察する。
だが俺としては、光輝と仲良くするのに両親の事は関係ないため、今の今まで詳しく聞いた事はなかった。
だから、光輝の両親に対する認識は『とりあえずいつも家にいなくて、忙しい弁護士の父ちゃんと母ちゃん』それくらいだ。
そんな日々の中、広い家に一人でいるのが寂しかったのか、仲良くなればなるほど、一緒に過ごす時間が長くなれば長くなるほど、光輝は結構な距離でくっついて来る様になり……今に至る。
だから、俺達の関係って、もしかしたら親友よりも兄弟に近いかもしれない。
むむ〜ん……と、世で言われる兄弟関係とやらを思い出していると、光輝の方は首を横に振った。
「違う。魔王と臣下。俺は不死の騎士団長。」
光輝が結構真面目に答えるモンだから、空松さんの目は点になる。
いやいや、そのネタは一般受けしないぞ〜?
「光輝、お外でそれは止めとけって。二人の時にな。」
「……うん、分かった。」
光輝が渋々返事を返した瞬間、離れた所で空松さんと光輝を呼ぶ声が聞こえ、二人はそのままそちらへ向かった。
どうやら相手チームの団体さんが来た事が、外からも聞こえ始めた黄色い声で分かる。
「……他校でも人気あるんだよな、光輝って。ホント凄いな、芸能人みたいだ。」
渋々外に繋がる扉の前に並んで、他校の団体さんを迎え入れる光輝を見て、その存在感が素直に凄いと思った。
しかしそのせいで、外では元からいたらしいウチの学校の女子生徒達と、応援する陣地を争う他校の女子生徒達の戦いが始まり、とてもうるさくなってしまう。
聞こえるのは、全部『日野君かっこいい!』『素敵〜!こっち向いて!』などなど、バスケの試合というより光輝を見に来たって感じの女の子達で、他の部員の人たちは総じて苦笑いしている様だ。
「もう、なんだかな〜……。日野には敵わないわ。」
「まぁ、仕方ねぇよ。あの面にあの実力だもんな〜。」
部員達は、それぞれ騒ぐ周囲を無視して試合に集中し始め、その後試合が開始されると、勿論一番活躍したのは、光輝だった。
大人数のマークをつけられようが、その全てを華麗に抜いていき、ゴールする姿は確かにカッコいい。
親友の活躍に熱くなり、気がつけばタオルを振って叫んでいた。
「うぉぉぉ〜!!光輝いいぞ!そこだっ!!頑張れ〜!!」
そんな声援に答えるように、光輝は次々とゴールを決めていき……試合はこちらの圧勝で終了したのだった。
◇◇
「日野〜今日、これから皆で打ち上げに行くんだけど、行かねぇか?」
「日野君、一緒に行こうよ〜♡皆、一番活躍したエース様を皆労いたいんだよ。」
「ホントすごかった〜。圧勝だもんね、試合!強豪相手にコレは快挙だよ!」
試合終了後、、真っ先に俺の所に来て、さっさと身支度を整え始めた光輝。
そんな光輝に向かい、先輩達やマネージャー達が一斉に声を掛けてくるが、光輝はそっけなく答えた。
「いかない。──さ、帰ろう。影太。」
俺の方を向いた光輝はニコニコしながら、空になったシロップ漬けのタッパと俺の座る場所に敷いてたクッションをバックに入れていく。
その姿を前にムワッ〜とした嫌な感じが漂い、全員が凄い形相で睨みつけた。
────俺を。
「あ、あのさ、光輝……。」
チクチクブスブス!と刺さる視線を受けながら、流石にまずいのでは?と思い、口を出そうとしたのだが、光輝は全然気にしてない様だ。
このまま俺のせいで孤立していっちゃったら、ちょっと良くない気が……。
オロオロしているのは俺だけで、気にせずそのまま帰ろうとした光輝が、俺の手を握りその場から去ろうとすると……。
「待って下さい!」
突然声が聞こえたので思わず立ち止まって振り向けば、そこにいたのは────さっき俺に話しかけてきた花園さんだった。

