「ごめん。あんまり深く考えずに遊んでた。光輝って忙しいんだな。」

「……当たり前じゃない?光輝君は、本当に凄い人で……付き合う人間も選ぶべきだと思う。
少なくとも、部員でもなんでもないのに、図々しくこんな場所に座っている様な人は止めたほうが良いって皆思ってると思うよ?
そもそも高校生くらいになると、誰に言われなくても自分で選ぶんじゃないかな?
合う合わないも分かってくるし、それぞれふさわしい場所で過ごす方が、ストレスないと私は思うけどな。」

「あ〜……うん、そっか。そう……かもな。」

脳裏に浮かぶのは、最近モヤモヤしていた事について。

いつまでも光輝を、こんなアホみたいな魔王ごっこに付き合わせない方がいいんじゃないか?
自分の中で、答えが凄まじい速さで固まっていく様な気がした。

「これからの光輝君の輝く様な未来、邪魔しないでね。」

花園さんは、もう一度見惚れるような笑みを浮かべた後、そのまま他のマネージャー達がいる所へと帰っていく。
花園さんを迎えたマネージャー達の目は、憎々しげに俺を睨んでいて……困ってしまって頭を掻いていた、その時────……。

「おぉ、黒井。おはよう!」

「あ、空松さん!おはようございます。」

声を掛けてきたのは、このバスケチームの部長の<空松 千(からまつ せん)>さん。

空松さんは、俺と光輝と同じ小学校、中学校出身で、小学校の時は同じ登校班の先輩かつ、中学校では、光輝が通うバスケ部の部長をしていた人だ。
身長は光輝の方が高いが、空松さんの方がガッチリしていて、昔からパワーフォワードとして非常に恵まれた体格をしている。
スポーツマンらしい短髪に、カラッ!とした笑顔がトレードマークで、いつも人に安心感を与えてくれる……俺にとっては、憧れの先輩像を形にした様な人だ。

「毎回ご苦労さん。応援に来てくれてありがとうよ。」

「とんでもない!寧ろ、いつもお邪魔してしまってすみません……。」

お互い深々と頭を下げあった後、空松さんは先輩やマネージャー達に囲まれている光輝の方をチラッと見つめた。

「正直、お前がいてくれて助かっているよ。光輝のヤツ、お前がいるとやる気出るみたいだからさ。お前だって予定があるだろうに……大変だろう。」

優しい言葉にジ〜ン……としたが、別にやりたい事はちゃんとできているので、慌てて首を振る。

「いえ、やりたい事はちゃんと出来ているので大丈夫です。それにしても……相変わらず光輝は凄いですね。いつも皆に囲まれている。」

空松さんに続いて、光輝へと視線を向けると、先程から変わらずキラキラ輝く場所に立っている光輝が見えた。

凄いなぁ……本当に。

『これからの光輝君の輝く様な未来、邪魔しないでね。』

先程花園さんに言われた言葉が頭を過ぎり、コッソリため息をつくと、空松さんは『う〜ん……。』と考え込む様な仕草をした。

「確かに光輝は突き抜けて凄いヤツだと思うが……俺は、お前の方が凄いと思う。」

「はっ??俺……?空松さん、一体何を言ってるんですか。」

冗談を言われたかと思い、ヘラっと笑ってしまったが、空松さんの顔が思いの外真剣な顔をしていたため、目を僅かに見開く。
空松さんは、キョトンとした顔をしている俺に向かって周りに聞こえない様な小さな声で話し始めた。

「人間って凄く面倒くさくて、自分の単純なはずの感情が、周りの人の言葉でアッサリと変わっちゃう事があると思うんだよ。
コイツいい奴だなって自分は思っているのに、周りの人に言われた言葉でソイツの評価がコロッと変わったり、他にもソイツが自分にないモノを持っていて比較されたら嫌いになったり……。
俺だってそうならない様に気をつけても、やっぱりそう変わっちゃう事があるんだ。」

「??は、はぁ……。」

分かるような分からない様な??
なんだか遠い国の話を聞いている様な気分になって、とりあえずという感じで頷くと、空松さんは俺の頭をグリグリと撫でる。

「そうだよな〜。お前にはよく分からない話かもな。
まぁ、簡単に言うとさ、お前は光輝の側にいて嫌だなって思う事はないか?」

「?光輝の側にいて嫌……?」

そう言われて改めて今までの光輝との思い出を振り返ったが……付き合わせて申し訳ないと思う事はあっても、嫌だと思う事はなかった。

「────いえ、ないですね。」

「そうか。それが俺が凄いと思う所だ。
ちなみに俺は、光輝の側にずっといると、嫌だと思う日が絶対来ると思う。
だってさ、何を頑張ったって勝てないから。」

「な、なるほど……?」

いまいち言いたい事が分からずにいると、空松さんは困った様に笑う。

「なんていうかさ……それって一緒にいると、自分の努力全部……いや、存在そのものが否定された様な気になっちゃうんだよな。
会う人会う人全員に、光輝と比べられて嫌なことを言われて……そうすると結構メンタル的にキツくなってきて、どんなに光輝が悪くなくても、憎む時も来るかもしれない。
それを平然と気にしないで側にいられるって……スゲェなって思うわけだ。」

空松さんは、光輝を囲んでいるマネージャー達の方を見ると、片手でグチャグチャと髪の毛を乱す。

「ホントにすまんな……。バスケ部のために動いてくれるのは本当に有り難いんだが、目的がハッキリしているからトラブルも多くてな……。
まぁ、それを含めての青春なんだろうから、仕方ないんだが……。」

「そうなんですか……。部長って大変そうですね。」

正直空松さんの話は難しくて、八割以上分からなかったが、後半の話からは自分では知り得ない苦労が見えた気がして……素直に労いの言葉を口にすると、空松さんはキラッ!と目を輝かせた。