◇◇
「お〜い、光輝起きろぉ〜。」

今の時刻は六時!
朝は死ぬほど早起きの俺は、目覚ましなしで起きることができる。
この特技はとても頼りにされていて、特に週末は毎回こうして泊まっていって、朝に光輝を起こしてあげるのだ。

「……う〜………。」

すると死ぬほど朝に弱い光輝は、俺の声によって意識を取り戻し始め、うめき声の様な声をあげた。

「光輝さ〜ん、朝、朝、朝、朝だぞ〜。」

正面からヌイグルミの様に抱きしめられている俺が、光輝の頬をペチペチと叩いていてやると、光輝はうっすら目を開ける。

寝ぼけている顔でも、ホントイケメン面だな〜コイツ……。

ボケ〜としている光輝の頬を突いてやると、光輝は本当に幸せそうに微笑み、そのまま俺のおデコに自分のおデコをつけた。

「おはよう。影太。俺の魔王様。」

「うむ、おはよう!忠実なる臣下よ!」

止めよう止めようと思っているのに、こうしてちょいちょいネタを振ってくるから、どうしてもノリで答えてしまう。

クソ〜!空気が読めるパリピ男め!

ブツブツ不満を口の中で呟きながら、そのまま起き上がろうとしたのだが、光輝はまるで猫の子のお腹に顔を埋める様に、俺の胸元へ顔をくっつけた。

「んん〜……。」

「うわっ、擽ったいから止めろって!ホント、光輝は朝が弱いんだから、全く〜……。」

呆れながらため息をつくと、光輝はそのまま大きく息を吸い込んでから、ムクッと起きる。

「うん。朝は弱いから、影太がいないと起きれないんだ。ありがとう。」

『ありがとう』という言葉にドキッ!としてしまい、動揺したのを隠すため、俺はベッドから飛び起きた。

「ほら!今日は大事な試合の日!笠井さんの作ってくれたご飯食べようぜ〜。」

「うん。その前に顔洗ってくるから、影太は先行ってて。」

光輝はファ〜……と大あくびをしながら立ち上がると、そのまま洗面台の方へと行ってしまったので、俺はまだ少し早い心臓を抑えながら大きく息を吐き出す。

「『ありがとう』か……。大したことなんてしてないのに……なんだかな〜。」

自分という存在の、いわゆる存在意義みたいなモノを考えると、正直いてもいなくても困らないモノだと思っていて……。
ハイスペックな光輝と一緒にいると、こうした何気ない日常を過ごしている時に、罪悪感にも似た気持ちが浮かぶ時があった。

友情って、結局一方だけ負担だと、苦しくなるもんなんだな。なんだか利用している様な気持ちになっちゃうから。

「大事に想う程、やってやられての関係を築くことは大事なんだろうな……。
やってもらってばかりの関係で満足できるなら……それって友情とは違う気がするし。」

なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えながら、俺は台所の方へ向かった。


「あ、温めてくれたんだ。ありがとう。」

「どういたしまして。今日も美味しそう!」

朝はスクランブルエッグにカリカリベーコン、サラダに果物たっぷりの盛り合わせにフワフワの手作りパンがつく。
笠井さんは、毎週泊まりに来る俺用にと2人分用意してくれるから、本当に有り難い。

「「いただきます!」」

向かい合って座ると、そのまま二人でご飯を食べ、身支度を整えて外へ出た。
まだ朝は早いためか空気が綺麗な気がする。

「今日の試合は、近くの高校との練習試合だよ。だから、あっちの応援も来るだろうから、沢山人が来そうだね。
しかも、ウチの高校での試合だから、こっちの生徒も見に来る人が多いだろうし……今回も煩そう。」

「あ〜……うん。まぁ、応援してくれて有り難いけどな〜。」

光輝は面倒くさそうにため息をついたが、実はこれは自分の高校のバスケ部を応援しに来ているのではなく、ほぼ全員が光輝を見に来ているだけだ。
中学高の時だって、毎回試合となれば相手チームの応援団と言う光輝のファンチームが、自校のチームそっちのけで光輝を応援していた。
しかも、それに負けじと同じ高校の生徒達が光輝を応援して……の、白熱した試合風景になる。
相手チームが負けて泣いているのは、多分単純に負けて悔しい以外にも理由があるに違いない。
なんとも言えずに、それ以上口を開くのは止めて、本日試合が行われる体育館へと向かった。


◇◇
「日野君!おはよう!」

「キャ〜!日野君、おはようございますぅ〜♡」

「アハハッ!日野君、今日も眠そうだね!そんな日野君って、いつもより身近に感じちゃうな〜。」

朝も早くから体育館で、試合前の準備をしてくれている沢山のマネージャー達が、光輝の姿を見るなり、一斉に話しかけてくる。

「……ハーレム。」

その光景は、ホント、まんまリアルハーレム。
青年向けの漫画や小説で出てくる、全員が主人公大好きな様々な個性を持つ美女たちの集団の様であった。

「男の夢……いいなぁ〜。────あ、あの子、この間、中野が気になるって言ってた子だ。」

『めちゃくちゃ可愛いんだよな〜。彼氏いないって言ってたから、俺にもいつかチャンスがあるかも!』
そんな事で盛り上がっていた中野を思い浮かべ、続けて光輝にハートをぴょんぴょん飛ばすその子を見つめると……中野への同情心からグスンと鼻を啜った。

「影太はここに座ってて。はい、飲み物はここに置いておくからね。」

黄色い声も熱い視線も華麗にスルーした光輝は、椅子を一脚持ってきて、自分のチームメイト達の席の隣にチョコンとそれを置く。
そしてテキパキと、持ってきたクッションを置いたり飲み物が入った小さめの水筒を渡してきたりと、過ごしやすい空間を作ってくれた。

「あ、ありがとう……。」

チクチク!ブスブス!!
視線が剣なら、俺は串刺しの刑になっていると断言できるくらいの鋭い視線に晒されながら、俺は用意された椅子に座って大人しく待機する。
すると、俺の首元にタオルが掛けられ、更に甘いシロップにつけたレモンが入ったタッパーを渡された。

「一昨日作っておいたシロップ漬け。試合を見ている間、食べてもいいから。」

「う、うん、分かった……。」

これって普通、試合をしている選手が食べるヤツじゃ?

ジッ……とシロップ漬けを見下ろしていると、光輝がチームメイトに呼ばれたため、席を外す。
すると、途端にヒソヒソ声よりはちょっと大きな声が、一斉に俺にぶつけられ始めた。