────ガンッ!

頭を殴りつける様な衝撃に、そのままブルブル震えていると、光輝はそのままご機嫌で俺の体を抱きしめご満悦面していた。

その後、意識を飛ばしながらもレモンパイを完食した俺は、意識半分で一人でお風呂に入り、そのままベッドに入る。
ベッドは光輝の自室……というには広すぎる部屋にあって、サイズはキングサイズ。
大人なら4〜5人寝ても余裕があるくらい大きいから、広々と使える最高の快適ベッドなのだ。

「陰キャには人権なしか……。」

正々堂々罵られてズ〜ン……と凹むに凹み、なんとなく昔の事を思い出した。

小学生の頃に流行り、俺の心を鷲掴みにしたゲーム、その名も【ドラゴン・ロード物語】
これは、ある国に生まれた正義感に溢れる少年が、かつて邪悪な魔王を倒した伝説の勇者の剣を抜いた事から始まる。

『剣を抜きし英雄が現れる時、魔王<ロード>が復活し、この世は混沌の時代を迎えるだろう。』

そんな先人たちが残した不吉な予言は当たり、主人公の少年が剣を抜いた日から、各地でモンスターによる被害が活発化していった。

『僕が魔王を倒し、この国を救うんだ!』

そう決意した主人公は、世界を救う勇者となる決意をする。
そして勇者は各地で怒っている荒ぶるモンスターを倒しながら、ヒロイン含む仲間たちとの出会いを経て、やがて魔王の住む城へと辿り着くと、主人公達の前に立ちふさがったのは、魔王を守りし四天王達だった。

『愚かな人間共め。ここで消えるがよい。』

四天王との戦いは苛烈を極めたが、その中で最も主人公達を苦しめたのは、死者の魂を操るモンスター【不死の騎士団長】である<ザイン>だ。

『全ては魔王様のために……!』

騎士団長は主人公達に何を言われようとも、最後まで魔王のために戦い、そして散っていった。

『後は魔王を倒せば世界は救われる!』

強敵であった騎士団長を倒した主人公達は、そのまま一気に魔王がいる部屋へ。
そうして魔王と戦うわけだが、その戦いの中、魔王が絶対的な『悪』ではなかったことを知る。

『この世界はかつて楽園の様に美しく、争いのない世界であった。それがなぜこんな、混沌とした世界に変わったか知っているか?』

その問いに主人公は答えた。

『お前という邪悪な存在が生まれ、この世を悪に染めたからだろう!』

自分達の『正義』を疑わない主人公とその仲間達は、憎しみの目で魔王を睨みつけながら心の内を叫ぶ。
主人公達の頭の中には、モンスターの被害によって愛する人を失くし、悲しみに打ちひしがれる人々の姿があった。
そしてその元凶である魔王を酷く恨んでいたのだ。
しかし、魔王から返ってくるのは、憎しみではなくただ哀れみを感じる視線だった。

『この世界に”人”が生まれたからだよ。強欲で全てを手に入れようとした欲深き”人”がな。』

『?な、何を……?』

憎しみの目を向けたままの主人公達の前で、魔王は静かにこの世界の成り立ちを話し始める。

『先にこの世界で平和に暮らしていたのは我々だったのだよ。
しかし、神のいたずらか……”人”という存在が生まれ、”人”は己の願望を叶えるために、次々と我が同胞達や無害なモンスター達を殺していった。
そしてとうとう禁忌の力まで手に入れると……和平を申し出た私を騙し、封印したんだよ。
長き眠りから覚めると、そこにはかつての世界はなかった。勿論、私の大事な者達も誰も……。』

魔王の口から語られたのは、到底信じられない真実で……。
主人公達の心には迷いが生じたが……それでも、いまこの世界を生きている大事な人たちのために、魔王を倒す。
そしてその後は、平和になった世界に迎えられ、幸せな人生を歩むわけだが……やはり魔王の言った事は本当であったと証明する遺跡が見つかり、主人公達は愕然とした。

『魔王の言っていた事は本当だったんだ。俺達は……かつてこの世界を滅ぼした者達の末裔というわけか。なら……本当の魔王は……?』

平和を喜ぶ人々を見つめながら、そう呟く主人公に、かつて聖女として一緒に魔王を倒したヒロインは言った。

『それでも私達は、この道を歩いていかなけらばなりません。例えそれが、最初は間違いで作られた道だとしても……。』

そうして二人は見つめ合い、この平和になった世界を共に守っていく事を誓うのだった────……。

『────って、ふざけんな!大馬鹿野郎!』

あんまりなエンドスクロールで思わずリモコンを叩きつけ、親父にげんこつを食らった日の事を思い出し、怒りはブワッ!と再燃する。

キラキラキャッキャッ!とした光り輝く主人公達。
その影で虐げられて、真っ暗な世界で生きてきた魔王とその仲間たち。

最後はそんな陽キャ代表の様な主人公サイドが勝利し、何もかもを奪われた魔王達は消え去った。
どう考えても酷い事を最初にしたのは、魔王達じゃなかったのに。
……だが、主人公達が突き通した『正義』も『悪』かどうかと言われたら、そうではないとは思った。

『正義』は、凄く難しいモノで、時として悪くない者達の方も『悪』として裁かれる事もある。
だから俺は、盲目的な『正義』というモノ自体を倒す事を誓い、小さい頃はそれと戦う強い魔王になりたいと思ったのだが……。

「……でも、そんな事に光輝をいつまでも付き合わせるのはな〜。だってさ、あいつ、今はどう見たって魔王サイドじゃないもん。」