「ねえねえネコさん。いつもそこにいるね。逃げないねぇ」

今日もまたニコニコとしながら彼女が寄ってきた。学校帰りの制服姿だ。

いつものように鈴を鳴らし、二回柏手を打つ。
熱心に祈っているときだけ、静か。

しん、とした静寂のなか、カラスの鳴き声が聞こえる。風が吹き、落ち葉がカラカラと舞った。

「あのね」

参拝を終えた彼女が話しかけてくる。

「神様ってお願い聞いてくれるよね? 毎回お賽銭入れなくても大丈夫?」

どんな心配だよ、と思わずネコパンチを食らわすところだった。

「うそうそ、冗談。ちゃんとお賽銭入れてるよー。だって美月のお願い叶えてほしいんだもん。ネコさん、神様に伝えてくれない?」

なぜか拝まれた。
彼女――名を美月と言うのか。美月はそんな調子で神頼みをしていた。

熱心に何を祈っているのか。ひとり言が大きすぎて嫌でもボクの耳に毎回入ってくる。

「圭くんの受験が上手くいきますように。医学部合格しますように!」

ふーん、他人の受験を祈っているわけか。自分はいいのか? 美月も見たところ受験生っぽいけれど。まあ、ボクには関係ないか。

「ねえ、ネコさーん。今日も可愛いねぇ。圭くんなら絶対受かるよね! だって圭くんだもん。あっ、私がお参りしてるの、ないしょだからね」

美月はベラベラと一人で楽しそうに喋っている。
ないしょもなにも、ボクが誰に喋るというのだ。その圭くんとやらも知らないし。