「ねぇ、絶対に内緒だからね」

神社の本殿の前でブツブツとお願いをした彼女が、ちらりとこちらに視線を向けながら微笑んだ。

北風が寒くまだ春は遠い。
けれどここは日当たりが良くて気持ちがいい。

ボクはふいと目をそらして丸まった。

「ちょっとぉ、聞いてるんでしょー」

なぜだかボクに話しかけてくる。
聞いてはいない。聞こえてくるだけだ。
あと、ボクはここがあったかいからいるだけだし。

「こらー、ネコー!」

何だよ、うるさいな。
昼寝の邪魔をしないでほしい。

「じゃあまたねー」

騒がしく帰って行く彼女は最近毎日のように神社(ここ)に来る。晴れの日も雨の日も雪の日も。いつも何かを熱心に祈っている。

最初はボクの存在にも気づいていないようで、「神様どうかお願いします」と大きな声で祈っていたっけ。で、あるときボクに気づいて「わあー!」と声を上げていた。

本当に騒がしい。ここは神社だぞ。彼女以外の参拝者は静かに詣って帰っていくというのに、いつも彼女はベラベラとしゃべっていく。

ボクは猫だ。話し相手になんかなれないというのに、いつも彼女の会話に巻き込まれる。気まぐれで「にゃ」と鳴いてみせれば、「やっぱりそう思う?」と嬉しそうな顔をする。

まったく、意味がわからない。