case3-after
「ふざけるな、俺を戻せ! 俺を誰だと思っている!」
ガシャン、と男の行く手を鉄柵が阻む。柵の向こう側で冷たい視線を男に向ける人々は、声をかけることもなく立ち去った。
この場において男は神に背いた犯罪者だ。故に、救いの手は固く禁じられている。助ける者は、現れない。
窓もなく薄暗い地下牢に、とある男が捕らわれていた。
男の名前はジェラルフ。以前の名はジェラルフ・フォン・ロガスデア。『混じり合う黄昏の世界』と神々が呼ぶ世界において、魔法省大臣を務めていた四十代の男だ。
彼は神の怒りに触れ、地位も名も資産も、その世界での生存権すらも失った。そうして強制的に送られたのが、同じ神々の管理する『混じり合う黎明の世界』地下牢である。
神々はすでに、毒霧が深まるばかりの黄昏の世界の未来を憂いていた。そうして新たに生み出した『黎明の世界』に世界線をゆっくり混じり合わせ、救済の手を差し伸べていたのだ。
そんな中起きた、聖女強制招来。『紹介所』と契約していた神々は事の次第を知り激怒した。本来神々のこの世界への過干渉は崩壊を招きやすい為控えられていたが、この時ばかりは神罰が世界を襲った。毒霧が局所的に神樹結界内部に現れ、国を纏める上層部の多くが倒れたのだ。
数人の民に寄り添う神官たちが各地で同時に神の神託を口にし、聖女の血を継ぐ者たちの悪行は次々と暴かれた。特に魔法省大臣は直接『天からの鎖』に巻き取られ姿を消すことになり、民には明確に罪人たちが神の怒りに触れたことが伝わったのである。
ここからは男の知らないその後の話となるが、混乱する世界に異世界から一人の少女が聖女として現れた。少女は神樹に祈りを捧げる日々を過ごし、神樹はそれに応えるかのように葉を生い茂らせた。それが民の心の拠り所となって、神罰から始まった世界の混乱は王政の終了と民が代表を選出する新たな試みによって終着が見え始め、輝く神樹を残してそっと聖女は元の世界へと帰還した。
その際、もともと民に慕われていた王族唯一生き残りであり、民の代表者を支える形で動き回っていた第三王子が笑顔で見送り、そして涙したという噂もあるが、王子は神罰と同時に地位を返上していた為、大きく噂になることはなかったという。
さて、『天からの鎖』に絡めとられた男、ジェラルフは、意識を失ったあと目覚めた時には『黎明の世界』にいた。最も男は自分が別世界にいることなど知る由もないのだが、それも当然。檻で目覚めた男が檻の外に出ることを許されるのは一日に一度のみであり、牢から続く部屋にあるオーブに魔力を流す時だけだ。
ジェラルフはそれを拒否しようとしたが、そうするとなぜか手首にはめられた手枷から強烈な痛みが全身に広がり、全身の皮膚に鎖の痣が浮かんで体を締め付けた。魔法に秀でていると自負する男から見ても魔道具には見えないそれは、なぜか男の魔法すべてを封じ、オーブに魔力を注ぐ以外のすべての魔力の流れを制御していた。
ジェラルフは今の境遇をなんとかしようと、抗議から脅迫、果ては飲食の拒否などあらゆる手を講じたが、なぜか男は飲まず食わずでも魔力が回復し続けた。死ぬことは赦されなかった。ただの魔力製造機のように扱われる日々は男の精神をすり減らしていったが、狂うことすら赦されていないと今後男が気づくことはあるのだろうか。
この世界には、神樹はなかった。黄昏の世界を苦しめていた毒霧は、この世界にはない。そんな希望も、男は一生知ることはない。果たして原因は何なのか? という黄昏の世界の魔法職が長年解明を望み研究されていた毒霧、その正体も永遠に知り得ない。
生まれて間もない『混じり合う黎明の世界』は、世界を発展させ人々の未来を守るために、様々なエネルギーの使い道があった。ただそれだけのことだ。
「ふざけるな、俺を戻せ! 俺を誰だと思っている!」
ガシャン、と男の行く手を鉄柵が阻む。柵の向こう側で冷たい視線を男に向ける人々は、声をかけることもなく立ち去った。
この場において男は神に背いた犯罪者だ。故に、救いの手は固く禁じられている。助ける者は、現れない。
窓もなく薄暗い地下牢に、とある男が捕らわれていた。
男の名前はジェラルフ。以前の名はジェラルフ・フォン・ロガスデア。『混じり合う黄昏の世界』と神々が呼ぶ世界において、魔法省大臣を務めていた四十代の男だ。
彼は神の怒りに触れ、地位も名も資産も、その世界での生存権すらも失った。そうして強制的に送られたのが、同じ神々の管理する『混じり合う黎明の世界』地下牢である。
神々はすでに、毒霧が深まるばかりの黄昏の世界の未来を憂いていた。そうして新たに生み出した『黎明の世界』に世界線をゆっくり混じり合わせ、救済の手を差し伸べていたのだ。
そんな中起きた、聖女強制招来。『紹介所』と契約していた神々は事の次第を知り激怒した。本来神々のこの世界への過干渉は崩壊を招きやすい為控えられていたが、この時ばかりは神罰が世界を襲った。毒霧が局所的に神樹結界内部に現れ、国を纏める上層部の多くが倒れたのだ。
数人の民に寄り添う神官たちが各地で同時に神の神託を口にし、聖女の血を継ぐ者たちの悪行は次々と暴かれた。特に魔法省大臣は直接『天からの鎖』に巻き取られ姿を消すことになり、民には明確に罪人たちが神の怒りに触れたことが伝わったのである。
ここからは男の知らないその後の話となるが、混乱する世界に異世界から一人の少女が聖女として現れた。少女は神樹に祈りを捧げる日々を過ごし、神樹はそれに応えるかのように葉を生い茂らせた。それが民の心の拠り所となって、神罰から始まった世界の混乱は王政の終了と民が代表を選出する新たな試みによって終着が見え始め、輝く神樹を残してそっと聖女は元の世界へと帰還した。
その際、もともと民に慕われていた王族唯一生き残りであり、民の代表者を支える形で動き回っていた第三王子が笑顔で見送り、そして涙したという噂もあるが、王子は神罰と同時に地位を返上していた為、大きく噂になることはなかったという。
さて、『天からの鎖』に絡めとられた男、ジェラルフは、意識を失ったあと目覚めた時には『黎明の世界』にいた。最も男は自分が別世界にいることなど知る由もないのだが、それも当然。檻で目覚めた男が檻の外に出ることを許されるのは一日に一度のみであり、牢から続く部屋にあるオーブに魔力を流す時だけだ。
ジェラルフはそれを拒否しようとしたが、そうするとなぜか手首にはめられた手枷から強烈な痛みが全身に広がり、全身の皮膚に鎖の痣が浮かんで体を締め付けた。魔法に秀でていると自負する男から見ても魔道具には見えないそれは、なぜか男の魔法すべてを封じ、オーブに魔力を注ぐ以外のすべての魔力の流れを制御していた。
ジェラルフは今の境遇をなんとかしようと、抗議から脅迫、果ては飲食の拒否などあらゆる手を講じたが、なぜか男は飲まず食わずでも魔力が回復し続けた。死ぬことは赦されなかった。ただの魔力製造機のように扱われる日々は男の精神をすり減らしていったが、狂うことすら赦されていないと今後男が気づくことはあるのだろうか。
この世界には、神樹はなかった。黄昏の世界を苦しめていた毒霧は、この世界にはない。そんな希望も、男は一生知ることはない。果たして原因は何なのか? という黄昏の世界の魔法職が長年解明を望み研究されていた毒霧、その正体も永遠に知り得ない。
生まれて間もない『混じり合う黎明の世界』は、世界を発展させ人々の未来を守るために、様々なエネルギーの使い道があった。ただそれだけのことだ。
