「だわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
いやはや凄い凄い。空飛んだよ、オレ。
飛んでみて分かったけど、地下水路とはいえ結構広いんだ、ここ。
多分岸壁まで百メートルはある。
でも暗いしさ? 途中で水面に落ちるのも嫌だったから、思いっきりジャンプしたんだよ。
いつもの韋駄天足――百メートル六秒の走りより早かったんじゃないかと思う。
お陰でコレだよ。
船からジャンプしたオレは、あっという間に岸壁が近づいてきたんで、足から着地をするべく身体をねじった。
よくヒーローアニメとかであるじゃないか、敵に思いっきり投げつけられたヒーローが壁に対して垂直に着地するやつ。
その後、そんな攻撃屁でもないって顔しつつ、壁垂直状態でグっと敵をにらみつけるんだよな。
カッコいいだろ? あれやりたかったんだよ。
ところがさ、暗いから目測を誤っちゃってさ。
やっぱり着地のタイミングに合わせて身体のバネの調節とかしないといけなかったんだろうな。
そりゃ素人が訓練もなしでいきなり成功するわけがないわな。
オレはその場に仰向けに転がったまま、そっと頭を起こして下半身を見た。
いやもう下半身ぐっちゃぐちゃ。あははっ……はぁ。
ちなみにひどいのは下半身だけじゃない。
だって、つま先から頭のてっぺんまで一瞬で凄まじい衝撃が駆け抜けたもんね。
歯が……多分、一本残らずイカれてる。
今のオレは、永久歯が折れてもそこに再度永久歯が生えてくるビックリ人間だからいいけど、そうじゃなかったらこの若さで総入れ歯。大惨事だよ。
ま、そんなわけで、足腰の骨が衝撃に耐えられなくって、ぐっちゃんぐっちゃんのぐっちょんぐっちょん。いわゆる複雑骨折さ。
水路からは半魚人どもが、空からはガーゴイルどもが大挙して近づいてきてるってのに立てやしねぇ。
ヒタ、ヒタ、ヒタ……。
やばいやばい、上陸して来たぞ。治れ治れ、早く治れ、オレの下半身!!
超回復による治癒が絶賛発動中だが、ここまでぐっちゃぐちゃだとあと三十秒はかかる。
あぁあぁ、半魚人のペタペタ歩く音が確実に近づいてきている。
ヤバい、囲まれた。
お揃いの銛を右手に持って、オレを指差して笑ってやがる。
ずいぶんと楽しそうだな、おい!
どんな強敵が待っているかと思ったら、大怪我して動けず、如何様にも料理できる間抜けでしたって、そりゃ笑うか。
半魚人が一斉に銛を振り上げた。
その瞬間、全快したオレはグっと足に力を入れると、その場で一気に五メートルの上空までジャンプした。
半魚人どもが唖然としてオレを見上げる。
「吠えろ、シルバーファング! 第一の牙、蛇腹剣!!」
空中で逆さまになりながらオレは思いっきり剣を振った。
全長十メートルにまで伸びた刃が、一瞬で半魚人どもの間を駆け抜ける。
オレが着地すると同時に、二十匹はいた半魚人どもの切断された首が、地面にポトンポトンと相ついで落ちた。
地面に着地したオレは、再度蛇腹剣による全方位攻撃を行った。
半魚人に遅れること三秒。
空から襲いかかって来たガーゴイルたちも、物理法則を無視した蛇腹剣の乱舞によって正確に首を落とされ、墜落した。
「やれやれだ」
着地したオレが服についた埃を払いつつブリッツ号を遠目に見ると、小舟が一艘、こちらに向かってくるところだった。
アデリナたちだ。
半魚人もガーゴイルもあらかた倒したから、残敵を掃討しつつ、せいぜい二十分遅れくらいで追ってこれるだろう。
とそこで、後ろからサワサワカサカサと、新聞紙がこすれるような、あるいは何かが動いているような妙な音が聞こえてきた。
振り返るとそこにはゆるやかに上へと向かう坂があり、遥か先の方に地上のモノと思しき光が見える。
どうやらこの穴が、ガイコツの示した地上への出口らしい。
が、それにしては、坂の上から差し込む光の形が安定しない。
逆光でよく見えないのだが、まるでそこに何者かがいて、光を遮っているかのようだ。
オレはハテと軽く頭をひねりつつ目を凝らし……やがて絶叫した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
坂を降りてくるそれは、赤ちゃんだった。
いや、こう見えてオレ、赤ちゃん好きなんだぜ? 女癖は治らないだろうけど、子供ができたら結構子煩悩な良い父親になれると思う。
でもさ、そんな可愛い赤ちゃんがだよ? 百人単位でハイハイしながら坂を降りてきたらどうよ。さすがに引かない?
しかもさ、その赤ちゃんの顔ときたら直径四センチはありそうな丸い真っ赤な目が八個もついてるんだよ。これがまた無駄につぶらでさ。おまけに口にはデッカい牙が生えててさ? そんでもって身体は蜘蛛。もう駄目。そんなのが地面どころか天井や壁まで這って近づいて来るってんだから、完全に悪夢だよ。
それだけで飽き足らず、赤ちゃん大行進の後には、母親らしき大きな蜘蛛が三人も降りてきやがった。
母親は揃って艶の入った黒髪ロングで、パっと見かなり若く、目鼻立ちも結構整っていた。
キシャキシャと理解できない雑音を喋りながら、オレを見てニッコリ微笑む。
およ? 目が赤いのが難点だけど、それさえ気にしなければ普通に美人じゃん?
だが、そう思ったのは一瞬で、すぐ目の外側と頬の辺りに野球ボール大の赤目が現れやがった。
あ……目を瞑ってただけなのね。
顔に八個、整然と並ぶ大きな真っ赤な目に、よだれを垂らす牙の生えた口。
構成は赤ちゃんと同じ。そりゃそうか、親なんだから。
にしても、やっぱり蜘蛛は蜘蛛だ。神さまはひどいことしてくれる。
下半身に目を移すと、形が良く大きな乳房が丸出しで、思わず目を離せなくなるんだが、ヘソの下はやっぱり蜘蛛だった。
腹部がね、丸くてね、大きくてね、もう完全に蜘蛛なんだよ。
いくらオレの下半身が節操なしでも、コイツは無理だ。ピクリとも反応しないもん。
と、突如赤ちゃんが、オレに向かって口から何かをピュっと吐いた。
ポソンと地面に落ちる。
痰か? 汚いな。赤ちゃんだから仕方がないとはいえ……。
そこでオレの目が丸くなった。
痰の落ちた地面が泡立ってシューシュー音がしている。
酸だ! 強酸だ! この赤ちゃん、酸を吐きやがった!
同時にゾっとした。
油断していたばかりに、すでに囲まれている!
次の瞬間、赤ちゃんがオレに向かって一斉に酸を吐いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
全弾、モロに食らった。
顔も、頭も、手足も、あらゆる箇所に酸が降りかかる。
服なんてトイレットペーパー以下で、布もろともその下の肉体があっという間に溶けていく。
しかも、通常モードの超回復より溶けるスピードが早い。
骨! 骨! 骨! 骨が見えてるってば!!
ところがこれだけでは済まなかった。
皮膚が溶け、肉が抉られ大慌てのオレに、赤ちゃんが我先にと飛びかかって、一斉にオレの身体に牙を突き立てたのだ。
「痛ぇ!!!!」
身体中をワイルドに噛み千切られ、そこかしこから血が噴きだした。
なにげに力が強くて振り払うこともできない。
コイツはヤバい!
仕方なくオレは、足に力を込めた。
「韋駄天足! トルネード!」
オレは百メートル六秒の速力で、その場で独楽のように全力回転した。
オレにしがみついていた赤ちゃんも、さすがにこの遠心力には耐えきれず、弾き飛ばされて背中から岩壁に激突する。
「ギャアァァァァァァァァァアアア!!!!!!」
赤ちゃんたちがまた、一斉に泣きだした。
洞窟の中だからか、凄まじい大音響だ。
突如発生した大号泣の合唱に思わず両手で耳を塞いだオレは、不意に宙に浮いた。
「な、何だ!?」
見ると、何者かに胴をしっかり掴まれている。
しっかり一メートルほど浮いたところで、身体の向きを強引に変えられた。
そこにあったのは鬼女の顔だった。
わずか三十センチの距離で、蜘蛛の母親が眉を逆立てて怒っている。激怒している。
「ち、違うんだよ。そうじゃなくって……」
次の瞬間、オレは蜘蛛女に急に抱きしめられた。
といっても、色気のある話ではない。どちらかと言うと真逆だ。
バキャバキャバキャバキャァァァアアアア!!!!
「がぁぁああああああ!!」
どれだけの膂力なのか、オレの肋骨の何本かが一瞬でへし折れ、肺に突き刺さった。
「がはっ!!!!」
口から血が大量に溢れだした。
ヤバい。これはさすがにシャレにならない。
だが、ここで制限解除を使ったら、この後に待つ魔族戦でスタミナ不足に陥って戦えなくなる。
抜けて行く力を集結させて必死に蜘蛛女の腕を外そうとするが、体勢の悪さも相まって、びくともしない。
もう駄目かとあきらめかけたとき――。
ようやく援軍がやってきたのだった。
いやはや凄い凄い。空飛んだよ、オレ。
飛んでみて分かったけど、地下水路とはいえ結構広いんだ、ここ。
多分岸壁まで百メートルはある。
でも暗いしさ? 途中で水面に落ちるのも嫌だったから、思いっきりジャンプしたんだよ。
いつもの韋駄天足――百メートル六秒の走りより早かったんじゃないかと思う。
お陰でコレだよ。
船からジャンプしたオレは、あっという間に岸壁が近づいてきたんで、足から着地をするべく身体をねじった。
よくヒーローアニメとかであるじゃないか、敵に思いっきり投げつけられたヒーローが壁に対して垂直に着地するやつ。
その後、そんな攻撃屁でもないって顔しつつ、壁垂直状態でグっと敵をにらみつけるんだよな。
カッコいいだろ? あれやりたかったんだよ。
ところがさ、暗いから目測を誤っちゃってさ。
やっぱり着地のタイミングに合わせて身体のバネの調節とかしないといけなかったんだろうな。
そりゃ素人が訓練もなしでいきなり成功するわけがないわな。
オレはその場に仰向けに転がったまま、そっと頭を起こして下半身を見た。
いやもう下半身ぐっちゃぐちゃ。あははっ……はぁ。
ちなみにひどいのは下半身だけじゃない。
だって、つま先から頭のてっぺんまで一瞬で凄まじい衝撃が駆け抜けたもんね。
歯が……多分、一本残らずイカれてる。
今のオレは、永久歯が折れてもそこに再度永久歯が生えてくるビックリ人間だからいいけど、そうじゃなかったらこの若さで総入れ歯。大惨事だよ。
ま、そんなわけで、足腰の骨が衝撃に耐えられなくって、ぐっちゃんぐっちゃんのぐっちょんぐっちょん。いわゆる複雑骨折さ。
水路からは半魚人どもが、空からはガーゴイルどもが大挙して近づいてきてるってのに立てやしねぇ。
ヒタ、ヒタ、ヒタ……。
やばいやばい、上陸して来たぞ。治れ治れ、早く治れ、オレの下半身!!
超回復による治癒が絶賛発動中だが、ここまでぐっちゃぐちゃだとあと三十秒はかかる。
あぁあぁ、半魚人のペタペタ歩く音が確実に近づいてきている。
ヤバい、囲まれた。
お揃いの銛を右手に持って、オレを指差して笑ってやがる。
ずいぶんと楽しそうだな、おい!
どんな強敵が待っているかと思ったら、大怪我して動けず、如何様にも料理できる間抜けでしたって、そりゃ笑うか。
半魚人が一斉に銛を振り上げた。
その瞬間、全快したオレはグっと足に力を入れると、その場で一気に五メートルの上空までジャンプした。
半魚人どもが唖然としてオレを見上げる。
「吠えろ、シルバーファング! 第一の牙、蛇腹剣!!」
空中で逆さまになりながらオレは思いっきり剣を振った。
全長十メートルにまで伸びた刃が、一瞬で半魚人どもの間を駆け抜ける。
オレが着地すると同時に、二十匹はいた半魚人どもの切断された首が、地面にポトンポトンと相ついで落ちた。
地面に着地したオレは、再度蛇腹剣による全方位攻撃を行った。
半魚人に遅れること三秒。
空から襲いかかって来たガーゴイルたちも、物理法則を無視した蛇腹剣の乱舞によって正確に首を落とされ、墜落した。
「やれやれだ」
着地したオレが服についた埃を払いつつブリッツ号を遠目に見ると、小舟が一艘、こちらに向かってくるところだった。
アデリナたちだ。
半魚人もガーゴイルもあらかた倒したから、残敵を掃討しつつ、せいぜい二十分遅れくらいで追ってこれるだろう。
とそこで、後ろからサワサワカサカサと、新聞紙がこすれるような、あるいは何かが動いているような妙な音が聞こえてきた。
振り返るとそこにはゆるやかに上へと向かう坂があり、遥か先の方に地上のモノと思しき光が見える。
どうやらこの穴が、ガイコツの示した地上への出口らしい。
が、それにしては、坂の上から差し込む光の形が安定しない。
逆光でよく見えないのだが、まるでそこに何者かがいて、光を遮っているかのようだ。
オレはハテと軽く頭をひねりつつ目を凝らし……やがて絶叫した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
坂を降りてくるそれは、赤ちゃんだった。
いや、こう見えてオレ、赤ちゃん好きなんだぜ? 女癖は治らないだろうけど、子供ができたら結構子煩悩な良い父親になれると思う。
でもさ、そんな可愛い赤ちゃんがだよ? 百人単位でハイハイしながら坂を降りてきたらどうよ。さすがに引かない?
しかもさ、その赤ちゃんの顔ときたら直径四センチはありそうな丸い真っ赤な目が八個もついてるんだよ。これがまた無駄につぶらでさ。おまけに口にはデッカい牙が生えててさ? そんでもって身体は蜘蛛。もう駄目。そんなのが地面どころか天井や壁まで這って近づいて来るってんだから、完全に悪夢だよ。
それだけで飽き足らず、赤ちゃん大行進の後には、母親らしき大きな蜘蛛が三人も降りてきやがった。
母親は揃って艶の入った黒髪ロングで、パっと見かなり若く、目鼻立ちも結構整っていた。
キシャキシャと理解できない雑音を喋りながら、オレを見てニッコリ微笑む。
およ? 目が赤いのが難点だけど、それさえ気にしなければ普通に美人じゃん?
だが、そう思ったのは一瞬で、すぐ目の外側と頬の辺りに野球ボール大の赤目が現れやがった。
あ……目を瞑ってただけなのね。
顔に八個、整然と並ぶ大きな真っ赤な目に、よだれを垂らす牙の生えた口。
構成は赤ちゃんと同じ。そりゃそうか、親なんだから。
にしても、やっぱり蜘蛛は蜘蛛だ。神さまはひどいことしてくれる。
下半身に目を移すと、形が良く大きな乳房が丸出しで、思わず目を離せなくなるんだが、ヘソの下はやっぱり蜘蛛だった。
腹部がね、丸くてね、大きくてね、もう完全に蜘蛛なんだよ。
いくらオレの下半身が節操なしでも、コイツは無理だ。ピクリとも反応しないもん。
と、突如赤ちゃんが、オレに向かって口から何かをピュっと吐いた。
ポソンと地面に落ちる。
痰か? 汚いな。赤ちゃんだから仕方がないとはいえ……。
そこでオレの目が丸くなった。
痰の落ちた地面が泡立ってシューシュー音がしている。
酸だ! 強酸だ! この赤ちゃん、酸を吐きやがった!
同時にゾっとした。
油断していたばかりに、すでに囲まれている!
次の瞬間、赤ちゃんがオレに向かって一斉に酸を吐いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
全弾、モロに食らった。
顔も、頭も、手足も、あらゆる箇所に酸が降りかかる。
服なんてトイレットペーパー以下で、布もろともその下の肉体があっという間に溶けていく。
しかも、通常モードの超回復より溶けるスピードが早い。
骨! 骨! 骨! 骨が見えてるってば!!
ところがこれだけでは済まなかった。
皮膚が溶け、肉が抉られ大慌てのオレに、赤ちゃんが我先にと飛びかかって、一斉にオレの身体に牙を突き立てたのだ。
「痛ぇ!!!!」
身体中をワイルドに噛み千切られ、そこかしこから血が噴きだした。
なにげに力が強くて振り払うこともできない。
コイツはヤバい!
仕方なくオレは、足に力を込めた。
「韋駄天足! トルネード!」
オレは百メートル六秒の速力で、その場で独楽のように全力回転した。
オレにしがみついていた赤ちゃんも、さすがにこの遠心力には耐えきれず、弾き飛ばされて背中から岩壁に激突する。
「ギャアァァァァァァァァァアアア!!!!!!」
赤ちゃんたちがまた、一斉に泣きだした。
洞窟の中だからか、凄まじい大音響だ。
突如発生した大号泣の合唱に思わず両手で耳を塞いだオレは、不意に宙に浮いた。
「な、何だ!?」
見ると、何者かに胴をしっかり掴まれている。
しっかり一メートルほど浮いたところで、身体の向きを強引に変えられた。
そこにあったのは鬼女の顔だった。
わずか三十センチの距離で、蜘蛛の母親が眉を逆立てて怒っている。激怒している。
「ち、違うんだよ。そうじゃなくって……」
次の瞬間、オレは蜘蛛女に急に抱きしめられた。
といっても、色気のある話ではない。どちらかと言うと真逆だ。
バキャバキャバキャバキャァァァアアアア!!!!
「がぁぁああああああ!!」
どれだけの膂力なのか、オレの肋骨の何本かが一瞬でへし折れ、肺に突き刺さった。
「がはっ!!!!」
口から血が大量に溢れだした。
ヤバい。これはさすがにシャレにならない。
だが、ここで制限解除を使ったら、この後に待つ魔族戦でスタミナ不足に陥って戦えなくなる。
抜けて行く力を集結させて必死に蜘蛛女の腕を外そうとするが、体勢の悪さも相まって、びくともしない。
もう駄目かとあきらめかけたとき――。
ようやく援軍がやってきたのだった。

