翌日、仕事を終えた美遥はうきうきしながら車で帰路についた。
 安さが殿堂入りしているという触れ込みの店に寄って猫のおやつやじゃらしをいくつも買う。おやつはたくさん種類があって全部買いたくなって困った。

 爪とぎも買った。マカロは通常の猫のサイズではないから、猫ベッドは迷った挙句に犬用を買った。もっとじっくり選びたいが、彼だってソファではなく早く専用のベッドがほしいだろう。
 出費は痛いが、あこがれの猫ライフ——実際はちょっと違うが——なので、わくわくが止められない。これは隕石の発見者になる以上の楽しみだ。

 しかも、普通の猫と違って話が通じるし、トイレもちゃんとトイレを使ってくれるし、こんなラッキー、なかなかない。流れ星も粋な形で願いをかなえてくれるものだ。
 最初こそ殺すみたいな脅しをされたが、その後はまったく物騒なことは言わない。部屋を片付けろ、と親みたいに言うところが難点だ。

 猫が家政婦をしてくれたり料理を作ってくれる漫画があったな。かわりに部屋をかたづけてくれたりしないかな。
 そんな期待は、玄関を開けた途端に消えた。
 ドアから見える部屋はいつも通りに散らかっている。

「遅い!」
 いらいらしたマカロが玄関まで歩いて来て、美遥はじーんと胸が熱くなった。

「お猫様が玄関まで迎えにきてくれた……!」
「早くごはんにしろ。ごはんをしまってある扉、この手じゃ開けられねーんだよ」
「待って、まだ靴すら脱いでないよ」
 美遥は苦笑し、部屋に上がる。

 先にマカロにごはんをあげてからシャワーを浴びて自分のごはんを食べた。その間、マカロは退屈そうにテレビを見て時間をつぶしていた。
 昨日は刺身をよこせと言われたが、すっかり忘れている様子にほっとした。猫は忘れっぽいというから、そのせいだろうか。