宇宙船の墜落に気付いたのは美遥だけのようで、周囲から人が来る気配はなかった。
 彼はなにかの操作をして魚型宇宙船を隠した。

 美遥は彼と一緒にコンビニに寄ってから部屋に彼を連れて行った。
「散らかってるけど、ごめんね」
 部屋に入ると、彼は顔をしかめた。

「なんだこれは、猫だらけ!?」
「猫が好きで、つい集めちゃって」
 あちこちに猫のぬいぐるみや猫柄のクッションなどが置かれ、イラストも飾られている。世界一有名なコラボしまくる猫もいる。
 不機嫌そうにヒゲをぴくぴくさせた彼は、奥にあるベッドを見て毛を逆立てた。耳を伏せ、ひげはぴんと伸びてしっぽがたぬきのように太くなる。目は鋭く、牙を見せている姿に驚いた。猫といえば写真集のようなかわいい姿ばかり見ていた美遥には衝撃的な姿だった。

「猫!」
 シャー! と威嚇する視線の先にいたのは猫型抱き枕だった。
「生きてる猫はいないよ」
「死んでるのはいるのか!?」

「そうじゃなくて、グッズだよ」
「わ、わかっている。お前を試しただけだ」
 不服そうに耳を伏せたまま、彼は言う。猫の抱き枕に威嚇をしたのは本能的なものだろうか。

「そういえば、名前は?」
「マカロだ」
 美遥は少しがっかりした。「名前はまだない」あるいは「いっぱいあって」なんて言われたら面白かったのに。いや、鍋島と言われなくてよかったと思うべきか。もし黒猫ならヤマトと名乗ってほしい。