派手に走り回っているが、居合わせた人たちはまったく驚いた様子がなくのんびりと談笑を続けている。
 ということは、あの犬も人には見えないのだろうか。
 やがて、疲れ果てた犬があきらめて地面に伏せ、ルナは首にかぶりついた。本気の噛みではないが、牙をむきだす姿はなんだか怖い。

「しっぽを返すにゃ!」
「許して、君のしっぽだなんて知らなかったんだ」
 犬は耳を伏せて謝罪する。

「ルナ、落ち着いて。わんこはもう降伏してるよ」
 駆け寄って声をかけると、犬は目を真ん丸にして私を見た。

「俺が見えるの!?」
「そうだね」
「言葉も通じてる! 俺が死んで以来、俺のこと、ほかの人は見えなかったのに」
 どうやら彼は犬の幽霊らしい。

「そういえばそうだ。僕のことも普通の人間には見えないのに。お前、なにものにゃ?」
「今さらそれ言う?」
 私も不思議だ。霊感なんてまったくない。幽霊なんて見たことがないのに、どうして彼らが見えるのだろう。

「それより、しっぽ。黒いほうは君のじゃないよね?」
「そうです。道で拾ったんです」
「落とし主が見つかったんだから、返そうね」
 私が言うと、犬はしゅんと耳を垂れさせる。

「しばらく貸してくれないかな」
「すぐ返すにゃ!」
 ルナは犬に生えた猫のしっぽをくわえる。