しっぽをなくした猫又

 やがて、がちゃっとドアが開き、中年の女性が顔をのぞかせた。
「ママさん!」
 マロンが声を上げた。が、ママさんはマロンを見もしない。ということは見えていないのだろう。

「どのようなご用件でしょうか」
 私は手の汗を服で拭ってママさんに話す。
「以前こちらで飼ってらしたわんちゃん、最近見ないなあと思いまして」
 ママさんはびっくりしたようだった。
 これは私がない知恵を絞った末の作戦だった。どのみち不審者っぽい気がするけれど。

「娘さんと楽しそうに散歩してたのに、どうしたのかな、と心配になりまして」
「……ありがとうございます。マロンは一年ほど前に亡くなりました」

「ママ、マロンがなに?」
 麻鈴ちゃんが顔を覗かせた。私の足元でびくびくしているマロンに言及しないから、やはり見えていないのだろう。

「こんにちは。私は亡くなったマロンちゃんのファンだったの。どんなわんちゃんだったのかな」
 マロンは忘れられたくないだろうから、彼女が覚えているなら満足できるかもしれない。

「すごくいい子だったよ!」
 足元を見ると、マロンが耳をピンとさせて顔を上げていた。
「私が小さい頃は一緒に寝てたんだって! ボールで遊んだり、走ったり、いつも一緒にいて……」
 言いながら、麻鈴の顔がべそをかき始める。

「だけど、死んじゃった!」
 ひっくひっく、としゃくりあげながら麻鈴は言う。
「ご、ごめんなさい」
 私は思わず謝った。
 まずい。マロンは彼女が泣いているから気になって成仏できなかったはず。このように泣くなら、なおさら気になって成仏できないはず。