君はいつでも宝物をくれる

「こんにちは。今日は、モデルをします。皆、かっこよく描いてください」
 思わず吹き出してしまった。
 そう、一緒に通っていた頃、いつも僕の前でかっこつけていた亮太のままだったから。
「そこ、笑ってないで。席に着きなさい。君も描くんだよ」
 サトを指さして言った後、笑顔で見つめる。
 周りでは、子供たちが「サト先生も描こうー」と騒いでいる。
 教室全体に色がちりばめられた。
 子供たちから出る色が、楽しさと興奮で鮮やかに広がっている。
 綺麗だ。
 
 手が震えた。
 描けるかわからない。
 描けないかもしれない。
 ……でも、描けなくてもいい。
 席について、亮太を見つめる。

 子供たちの声と先生の声が飛び交う。
 子供の手で力強く描く絵は、時に鉛筆の芯がおれたり、クレパスの破片が飛んだり、紙が破れたりする。
 ノートに描く鉛筆の音。紙をめくる音。
 鉛筆やクレパスにからする木や土の匂い。
 タイムスリップしたみたいだ。
 あの頃の絵画教室にきていた。
 絵を描くことが楽しくてしょうがなかった。
 僕は、色のことをよくしゃべっていた。