君はいつでも宝物をくれる

 彼みたく上手に描けない。かっこ悪い。誰にも見られたくない。
 確か、そんな風に書いた気がする。
 ――嫉妬?
 リビングに行って、市から配布されている小冊子を手に取る。
 確かサトの絵が載っていたはず。
『空っぽ』それと、自分が書いた絵を見比べた。
 似ているとかじゃない。似ているわけない。サトの絵の方が上手だ。当たり前だ。
 でも、このうつろな瞳は、同じ感情だったのではないかと思えてならなかった。
 
 玄関が開いて、買い物袋をぶら下げた母親が、「ただいま」と入ってくる。
 今日は、夜勤ではない。
 小冊子の絵とスケッチブックを持っている息子を見て、「なにしてんの?」と声をかける。
 母親は、スケッチブックを見て、懐かし気に話してきた。
「そういえば、昔はサト君とあんたはよく互いを描いてたわね。サト君のスケッチブック、うちに残ってんじゃない? 今度返してあげなさいよ。あんた、自分の絵だからって返さなかったでしょ」
 ……そうだっけ?
 部屋に戻って、足元にあるスケッチブックを見る。
 ――たいらさとし――と書かれているのが何冊もあった。