君はいつでも宝物をくれる

「違うと思う。何か彼にとってショックなことがあったのだと思う。だけど、それを乗り越えようとしている。私は見守るしかないと思っているわ」
「……」
「私には話してくれなかったから、亮太くんになら、話してくれるかしらね」
 小百合は寂しそうに視線を落とした。
 ショックなことってなんだよ。
 なにがあったんだ。
 俺が聞いて、答えてくれるのか?
 ふと、サトの寂しげな空っぽの瞳を思い出した。
 見つめて欲しいと願っているのに、あの瞳には何もうつっていないのかもしれない。
 
 家に帰って、部屋のクローゼット奥にしまい込んだ、絵画教室の思い出を引っ張り出した。
 ――嫌なことを思い出させる。
 確認してみたくなった。俺の絵を。
 アルバムや、アルバムに入りきれていない写真に混じって、スケッチブックが出てきた。
 そこに、絵画教室最終日に描いたサトの肖像画が挟まっている。
 すごく下手で、笑えるが、その絵の瞳は、どこかで見たことがあるものだった。
 寂しい、怒り、悲しみ……。
(そうだ思い出した。この絵は、サトの目に映る自分自身を描いたものだ)