君はいつでも宝物をくれる

 何か考え事をしたあと、「……じゃあ、今度、絵のモデルをしてくれない?」と言われる。
 力仕事とか水仕事を期待していたのに拍子抜けした。
「モデル……ですか?」
 小百合は満面の笑みで、頷いた。
 
 窓ガラスがカタッと揺れる。外をみると、風が落ち葉を巻き上げていた。
「サト君の選ばれた絵『空っぽ』見た?」
 その質問にただ頷いた。
「どう思った?」
 外の渦巻く風が自分の心にも吹く。
 なんて答えたらいいか迷う。
 しばらく沈黙のまま、小百合は回答を待ってくれている。
「好きじゃない……です」
 それだけを言うのが精一杯だった。
「私も最初見た時、驚いた。サト君自身も戸惑ているみたい……。彼、絵が描けなくなっているの」
「――――」
 衝撃だった。
 学校で描いている姿を見ていなかったけど、まさか描けなくなっているなんて思いもしなかった。
「でも、本人は描きたいと思っているのよ。ただ……気持ちと行動が伴わなくなっているみたい」
 声が出なかった。
 サトが絵を描けなくなるなんてことあり得ない。
「俺があの絵を好きじゃないって言ったから? そうなのかな?」
 小百合は首ふった。