君はいつでも宝物をくれる

 会計を済ませて、出て行こうとしたときに声を掛けられた。
 振り向くと、絵画教室の松岡小百合先生が立っていた。

 病院を出たすぐ隣にある喫茶店へ入った。
「亮太くん、ひさしぶりね」
「はい。久しぶりです」
 先生の変わらない口ぶりに、不思議な安堵感を覚える。
「ケガでもしたの?」
 亮太の足から見えるネット包帯を見て問われる。
「サッカーの試合で、転んで……でも、もう治ってます」
 足首を回して見せる。
「先生は?」
「ああ、実はね、妊娠したのよ」
 少し頬を染めて、照れたような表情をした小百合は母の顔をしていた。
 鞄にマタニティマークのキーホルダーがぶら下がっていた。
「お、おめでとうございます!」
「ありがとう。でも、まあ、私もう40歳過ぎているのよね。ちょっと持病も持っているから、医者には慎重にって言われていてね……」
「……」
「ずっと子供が欲しかったから、嬉しくて。でも、まだわからないでしょ。ちゃんと生まれてきてくれるまではわからない」
「俺に何かできること、何か手伝うことがあれば言ってください」