昔のことを思い出していたら、田中の想い人がやってきたようだ。
本屋の入り口に、漫画本を持ったまま、彼女の元へ駆け寄っていた。
サッカー部の先輩の同じ中学で、近くの女子高に通っている網代ユキ。
「ゆ、ゆきさん!」
田中のデカい声が店内に響いた。
「ゆきちゃんがいいな」
そう言ってクスクス笑っている。
「は、はい。じゃ、じゃあ行きましょう」
そのまま外に出ようとした田中を亮太が引き留めた。
「おい、漫画、戻しとけよ。万引きになるぞ」
「あ……」
漫画本を戻し、外へ出て行った。
田中とゆきちゃんが歩いている後ろを亮太が歩く。
「お昼、まだですよね? 何がいいですか?」
「うーん。どこかカフェとかどう?」
「カフェ……」
田中が固まってしまった。
そりゃそうだろう。男子高校生にカフェは、壁が高すぎる。
「亮太、どこか知らない?」
田中が泣きそうな顔で、振り向いてきた。
サトと入った店は教えたくなかった。
「ごめん。俺もわからない」
「ゆきちゃん、ごめん。俺、そういうのわからなくて……」
「大丈夫よ。私の知っている店でいい?」
そう言うと、大通り沿いにあるパンケーキのお店に着いた。
10人ほど並んでいる。
30分ほど待って、亮太たちも入れた。
店内は、女性だらけだった。
場違いな雰囲気の亮太と田中は、肩身を狭くして席に着く。
