田中に頭を下げられたのは、彼女と初デートに付き合ってくれという頼まれごとだった。
 一週間ほど前に、サッカー部の先輩からカラオケに誘われたときだ。
 偶然、先輩と同じ中学だったという近くの女子高に通っている女生徒がカラオケ店の受付のバイトをしていた。
 田中が、その彼女に一目ぼれしてしまったらしい。
 先輩に頼み込んで、なんとか連絡先をゲットできたと言っていた。

 ほんと、すごいよな。
 夏休みなんてずっと練習なのに、デートのことを考えられる余裕があるなんてな。
 でも、それが力になるなら、良いことなのか。
 俺も、サトと今度また出掛ける約束したし。
 あ、でもユニフォームのレプリカ田中が買ってくれるのか。
 どうするかな。
 今度、出掛ける誘い文句がない。
 絵具、そうか、高くて買ってあげられなかった絵具を今度買うか!
 いや、なんかそれって援助交際のオヤジみたいだな。
 言い訳……そんなものなくても誘ったら一緒に出掛けてくれるよな。
 
 ――だって、サトは俺のことが好きなはずだから。