君はいつでも宝物をくれる


 サトが描いた絵には、『空っぽ』というタイトルを付けた。
 その絵を顧問に渡す。
「ほー。これは中々秀逸なものができたな」
 顧問は、そう褒めてくれたけど、僕にはわからなかった。
 美術部の作品は、まとめて市に提出する予定だったが、サトの作品が早くに出来上がったこともあり、それだけ早く提出された。
 「(たいら)、まだ提出時期に余裕があるから、他の絵も描いてるなら出していいぞ。後は、やることなくなったなら、他の部員の手伝いをしてやれ」
 顧問の言葉に頷き、お辞儀して、職員室を出る。
 サトは、もう絵を描く気力が失せていた。
 他の絵なんて描けない。部活は、手伝いだけで参加した。
 京香は、サトの様子がいつもと違うことに気付いて心配してくれていたが、何も答えられなかった。
 心配してくれていることに、かえって申し訳なさが募る。

 『空っぽ』とつけた絵は、あの日、鏡で見た自画像を描いた。
 汚い。醜い。顔半分が見えなくなるように色を重ね、見えている目だけが薄気味悪い光を放っている。
 絵を描き上げてから、心の中にあったどす黒い塊が消えた。
 消えたというより、心にぽっかりと穴が空いたようなそんな感じだった。
 そして、鏡の中で見た、醜い色も見えなくなっていた。