君はいつでも宝物をくれる


「サト、風邪が治ったら、試合見に来て」
 部屋から離れていく足音と、玄関の締まる音で、一気に力が抜けて、座り込む。
 膝を抱え込み、額を膝につけたまま、しばらく動けなかった。
 涙だけが止まらなかった。
 

 もう一日、学校は休んだ。
 その翌日に、サッカー予選ブロック決勝が行われた。
 僕は、試合会場には行かなかった。
 負けたということを翌週学校に行って知った。
 この週末、亮太がサトの家を訪れることがなかったからだ。

 毎年、高校サッカー選手権大会決勝に進める常連校ではないが、決して弱い学校ではない。
 士気が高まっていた所で、ルーキーの出場で会場は沸いていた。
 今年の選手に選ばれた一年生は、他所(よそ)の学校からも注目されていた。
 目を付けられていたといえばそうなのだろう。
 亮太が出場し、相手選手のファールで、足を負傷した。
 右足の捻挫。

 サトは、亮太の捻挫のことも学校に行ってから、足を引きずって歩く姿で知った。
 学校で会っても、亮太は変わらず笑顔を向けてくれるが、どこかよそよそしい。
 サトも、どういう態度をとったらいいかわからず、避けてしまっていた。