「付き合っているわけじゃないけど、良い関係性だと思っているわ。彼女、私の絵を好きだと言ってくれてるし。私も祥の飛ぶ姿が好き」
 そう言うと、祥の方を向いて手を振っている。
「その、サトくんの質問は、恋愛的にということなのかしら?」
 京香の質問に生唾を飲み込むしかなかった。
 サトの返事を待つわけでもなく、「わからない」と彼女は小さく独り言のように呟いた。
 それから、僕たちは、黙って鉛筆を動かした。
 セミの鳴き声だけが響いていた。
 スケッチが終わり、帰る準備をする。
 京香はずっと黙ったままだ。
「京香先輩。すみません。さっき変なこと聞いちゃって」
「……変なことじゃないわ。サトくんの質問、変なことないわ」
 京香はいつになく真面目な顔だ。
「好きって、わからない。いろんな意味があるものね。 でも、今は……このままがいい」
 京香の朱色に近い鮮やかさが、少し濁って見えた。
 悩み、不安という感情は、(せわ)しなく揺れ動く。色も同じだ。
「わかります……」
 そう答えたサトの声はすごく小さくて、京香に聞こえているかどうかわからなかった。
 校庭では、野球部の練習が始まっていた。