髪の毛は、肩まで長く、口ひげがある。
 整った見た目で、生徒の女性陣からため息が漏れていた。
 モデルが椅子に座る。
 皆、好きな角度から描くように位置を考えていた。
 モデルの綺麗な顔立ちは、英康おじさんを思い出させた。
 でも、色は濃紺で寒々としていて、冷たい印象があった。
 スケッチに冷淡な男性像が仕上がっていく。
 モデルの瞳はビー玉のように綺麗で、どこか寂し気で、空虚な感じがした。
 描いていて、これほどつまらないものはなかった。
(――亮太を描きたい)
 小さい頃からずっと変わらない。
 亮太を描きたい。亮太を見つめたい。
 見つめられたい。
 湧き出た感情に蓋をする。
 好きだと思う気持ちは、どこかで止めなければならない。
 そう思えば思うほど、溢れてしまって苦しい。
「はぁー」
 思わず、大きく出てしまった溜息に、皆がサトを見る。
 ぷっと誰かの吹き出した声で、次から次へと笑いが起こる。
「サトくん、大丈夫か?」
「高校生は勉強も忙しいから」
「疲れている?」
「そろそろ夏休みだし、がんばって」
 などと生徒の大人から次々と声が上がった。
「す、すみません」
 頭を下げて、顔を赤くしながら、鉛筆を走らせた。
 そうだ。あと一週間で夏休みだ。