ビルの隙間にある怪しげな店は、中学生のサトには刺激が強かった。
今でも鮮明に覚えている。
開店前だったから、客は、母と僕だけ。
重々しく開かれたドア。中は薄暗い。
良い香りのするおしぼり。
壁に並べてある無数の酒瓶。
母の前に置かれた色合いが美しいカクテル。
初めて見る、母の母じゃない女性としての顔がそこにあった。
英康おじさんは、 サトと似ていて、肌も白かった。
清潔感のある綺麗な人だった。
「綺麗な肌は良いことだから大人になっても自信をもてるくらい手入れしておきな」
そう言われた。
それまで、嫌で嫌でしょうがなかった白い肌も、その一言が腑に落ちてしまった。
第二次性徴期を遂げ、体毛の存在が気になる年頃だ。
濃さは普通だろうけど、肌のせいで黒が目立つのだ。
まだ髭には見えない、口の周りの毛が濃く見える。
剃刀負けして、切れた肌も、それはそれで目立つ。
ずっと嫌だと思っていたのに……。
おじさんの凛とした風貌に圧倒された。
