○暁良の執務室、昼
暁良は山積みの書類に目を通している。その側には蘇芳が控えている。
暁良「今日も桃寧さんは蘭子さんとお茶会か」
蘇芳「はい。すっかり打ち解けたご様子だとか」
暁良「……」
蘇芳「拗ねないでください」
暁良「本当は私だけが桃寧さんのすべてを満たしたいのに」
蘇芳「……」
暁良「わかっているさ。支配欲の強い男は嫌われるってね」
書類から顔を上げる暁良。
部屋の影に蟲(式神)の気配。すかさず蘇芳が術で滅する。
暁良「僕は桃寧さんが笑っていればそれでいい」
窓から青空を見上げる暁良。
○離れの応接室。
桃寧と蘭子がお茶をしている。傍には使用人たちが控えている。
桃寧「いただいた和三盆なるお菓子が……それはもう美しく……」
嬉しそうに話す桃寧。
桃寧「お忙しいお方なのに……私のことを気遣ってくださって……」
惚気を聞く蘭子。
蘭子「桃寧さん……」
蘭子がカタリとティーカップを置く。
蘭子「もう接吻はなさったの?」
桃寧「せっ……?!?!?!」
おっとりと尋ねる蘭子に、顔を赤らめて驚く桃寧。
蘭子「好き合う男女は接吻をするものなのでしょう?」
桃寧「す、好き合うだなんて……!」
蘭子が小説からその知識を得たのだとイメージで示す。
桃寧モノ『妻巫女──妻ということは──そういう、そういうことも──?』
桃寧と暁良が唇を寄せ合うイメージを絵で示す。
真っ赤になった桃寧が自分を落ち着けようと、深呼吸をする。
桃寧「ええと、私は妻巫女ではありますが……好きとか……そういった感情は……」
もじもじする桃寧。
蘭子(それは無理があると思うわ……?)
桃寧「暁良様のことは尊敬しておりますが……!ええと……好きにはならないと、決めたのです」
蘭子「……どうして?」
桃寧「運命の人と結ばれても……不幸になるだけだと思うのです」
蘭子「それが霧賀山の夫婦神の祝福でも……?」
桃寧「……母は先代の妻巫女でございました。母がどんな扱いを受けたかは……一族の方ならご存知でしょう」
八千代「桃寧様……!」
静かに話す桃寧を、八千代が焦ったように静止しようとする。
蘭子の後ろに使用人たちがいることを示す。
蘭子「お前たち。ここでは何も聞かなかった。いいわね」
使用人たち「──はい」
威圧を込めて使用人たちに命令する蘭子。使用人たちは静かに頭を下げる。
桃寧「雅旺院家に嫁がねば、母は幸せでいられたでしょう。しかし『運命』がそれを壊した──」
祖父母に愛されて笑顔を浮かべる清華のイメージを示す。
桃寧「母を想えばこそ──私は運命というものを疑わざるを得ないのです」
悲しそうに目を伏せる桃寧。
深くため息をつく蘭子。
蘭子「貴女が先代巫女の娘であること、他の人に話しては駄目よ」
眼光を鋭くする蘭子。
桃寧「は、はい……」
蘭子「……貴女が言いたいことも分かるわ。先代の勝明氏は……奥方を幸せにしようという気概がなかったのでしょうね」
蘭子「でも暁良様は違うでしょう?」
微笑む蘭子。
蘭子「下手くそかもしれないけれど、貴女を笑顔にしたいってもがいてる」
桃寧「はい……」
顔を赤らめる桃寧。
蘭子「私は幼い時分から暁良様のことを知っているわ。子どもの頃から当主としての振る舞いが……恐ろしいほどに板についていた」
子供時代の暁良をイメージで示す。表情は落ち着き払っている。周囲には暁良に付き従う使用人たち。
蘭子「でも今の暁良様は……ごく普通の青年のようだわ。贈り物選びに失敗したり、実家に帰った貴女を追いかけて行ったり」
桃寧のために奔走している暁良の姿。
桃寧「……」
蘭子「貴女が大切なのよ。貴女を幸せにしたいと思っている」
蘭子「まだ好きになってあげなくてもいいわ。ただ……暁良様のお気持ちも忘れないでいてあげてね」
頬を赤くする桃寧。
○夕方、離れの玄関。
辺りを箒で掃き清めている桃寧。
暁良「桃寧さん!」
手を振る暁良。
桃寧「あ……」
蘭子が「貴女が大切なのよ」といったことを思い出している。
桃寧「あ、あき……」※赤くなりながら
暁良「お茶会は楽しかったですか?」
桃寧「ええ、はい……」
暁良「それは良かった」
贈り物の箱を差し出す暁良。
桃寧「これは……?」
暁良「桃寧さんは遅くに紅茶や緑茶を飲むと寝付けないとおっしゃっていたではありませんか」
桃寧「はい……」
箱を受け取る桃寧。
暁良「黒豆茶です。夜でも安心して飲めますよ」
桃寧「私の……ために……」
喜色を浮かべる桃寧。
暁良「はい。蘭子さんが教えてくれまして」
桃寧モノ『蘭子様──』
桃寧モノ『蘭子様は大切なお友達だけど──』
暁良「高級品質の黒豆茶ですよ。女性の美容にも良いのだと蘭子さんが」
桃寧モノ『暁良様の口から他の女性の名前を聞くと──なんだか──』
暁良「あの……もしや黒豆茶はお嫌いでしたか?」
桃寧「……?!」
ムッとした顔の桃寧。
桃寧「は、恥ずかしながら……黒豆茶なるものは初めて知りましたので……!」
暁良「え、ええと……?」
ぶっきらぼうな桃寧に困惑している暁良。
桃寧「べ、別に……なんでもございません……!」
暁良「なんでもないことは……ないのでは……?!」
桃寧「本当に、なにも……!しっ、失礼致しますわね!ごきげんよう!」
慌ただしく離れへと入っていく桃寧。
取り残され、呆然としている暁良。
桃寧モノ『恥ずかしい』
八千代に淹れてもらった黒豆茶を味わう桃寧。
桃寧モノ『暁良様の口から他の女性の名前を聞いて──私、嫉妬した』
布団の中で眠れない様子の桃寧。
桃寧モノ『好きになんて……』
桃寧モノ『暁良様のことを好きになるはずなんてないのに』
顔を赤くしてぎゅっと目をつぶる桃寧のアップ。
○暁良の寝室。
寝付くことができず、ベッドで寝返りをうつ暁良。
ベッドの中で悶々としている。
眠れないまま夜が更けていく。
○朝。縁側から朝日を浴びる桃寧。
桃寧(結局……昨夜はうまく寝つけなかったわ……)
桃寧の顔にクマができている様子を示す。
暁良「おはようございます、桃寧さん」
桃寧モノ『暁良様……!』
暁良がやってきたことを示す。この時点で暁良の顔にはフォーカスしない。
桃寧モノ『なんだか──気まずい──』
サッと目を逸らす桃寧。
暁良「昨晩はちゃんと眠れましたか?黒豆茶の味はお嫌いではありませんでしたか?」
ハッと顔を上げる桃寧。
桃寧モノ『暁良様は──私のことを気遣ってくださっているのに──』
暁良「おや……もしや寝付けませんでしたか?他のお茶に変えてみた方が良いのでしょうか」
心配そうな暁良の顔。暁良の目元にもクマができている。
桃寧「……いえ、私……暁良様にあんな態度をとったことが恥ずかしくて……眠れなかったのです……」
苦しそうな表情の桃寧。
桃寧「暁良様ったら眠れないほどお忙しいのに……私……私……」
そんな桃寧を見て、目を見開く暁良。
ふっと笑みを漏らす暁良。
桃寧「なぜお笑いに……?!」
暁良「いえ、僕は貴女のことを考えていて眠れなかったのです。また僕は何か失敗してしまったのかなぁ、と」
桃寧「あ、貴方という方は……」
暁良「桃寧さんも一晩、僕のことを考えてくださったんですね」
桃寧「もう!知りません……!」
暁良「一晩でも貴女の心を独り占めできたなら、これ以上に嬉しいことはありませんね」
恥ずかしがる桃寧と、満足そうに微笑む暁良。二人を柔らかい日差しが包む。
離れの物陰に黒く蠢く蟲の存在を示す。
暁良は山積みの書類に目を通している。その側には蘇芳が控えている。
暁良「今日も桃寧さんは蘭子さんとお茶会か」
蘇芳「はい。すっかり打ち解けたご様子だとか」
暁良「……」
蘇芳「拗ねないでください」
暁良「本当は私だけが桃寧さんのすべてを満たしたいのに」
蘇芳「……」
暁良「わかっているさ。支配欲の強い男は嫌われるってね」
書類から顔を上げる暁良。
部屋の影に蟲(式神)の気配。すかさず蘇芳が術で滅する。
暁良「僕は桃寧さんが笑っていればそれでいい」
窓から青空を見上げる暁良。
○離れの応接室。
桃寧と蘭子がお茶をしている。傍には使用人たちが控えている。
桃寧「いただいた和三盆なるお菓子が……それはもう美しく……」
嬉しそうに話す桃寧。
桃寧「お忙しいお方なのに……私のことを気遣ってくださって……」
惚気を聞く蘭子。
蘭子「桃寧さん……」
蘭子がカタリとティーカップを置く。
蘭子「もう接吻はなさったの?」
桃寧「せっ……?!?!?!」
おっとりと尋ねる蘭子に、顔を赤らめて驚く桃寧。
蘭子「好き合う男女は接吻をするものなのでしょう?」
桃寧「す、好き合うだなんて……!」
蘭子が小説からその知識を得たのだとイメージで示す。
桃寧モノ『妻巫女──妻ということは──そういう、そういうことも──?』
桃寧と暁良が唇を寄せ合うイメージを絵で示す。
真っ赤になった桃寧が自分を落ち着けようと、深呼吸をする。
桃寧「ええと、私は妻巫女ではありますが……好きとか……そういった感情は……」
もじもじする桃寧。
蘭子(それは無理があると思うわ……?)
桃寧「暁良様のことは尊敬しておりますが……!ええと……好きにはならないと、決めたのです」
蘭子「……どうして?」
桃寧「運命の人と結ばれても……不幸になるだけだと思うのです」
蘭子「それが霧賀山の夫婦神の祝福でも……?」
桃寧「……母は先代の妻巫女でございました。母がどんな扱いを受けたかは……一族の方ならご存知でしょう」
八千代「桃寧様……!」
静かに話す桃寧を、八千代が焦ったように静止しようとする。
蘭子の後ろに使用人たちがいることを示す。
蘭子「お前たち。ここでは何も聞かなかった。いいわね」
使用人たち「──はい」
威圧を込めて使用人たちに命令する蘭子。使用人たちは静かに頭を下げる。
桃寧「雅旺院家に嫁がねば、母は幸せでいられたでしょう。しかし『運命』がそれを壊した──」
祖父母に愛されて笑顔を浮かべる清華のイメージを示す。
桃寧「母を想えばこそ──私は運命というものを疑わざるを得ないのです」
悲しそうに目を伏せる桃寧。
深くため息をつく蘭子。
蘭子「貴女が先代巫女の娘であること、他の人に話しては駄目よ」
眼光を鋭くする蘭子。
桃寧「は、はい……」
蘭子「……貴女が言いたいことも分かるわ。先代の勝明氏は……奥方を幸せにしようという気概がなかったのでしょうね」
蘭子「でも暁良様は違うでしょう?」
微笑む蘭子。
蘭子「下手くそかもしれないけれど、貴女を笑顔にしたいってもがいてる」
桃寧「はい……」
顔を赤らめる桃寧。
蘭子「私は幼い時分から暁良様のことを知っているわ。子どもの頃から当主としての振る舞いが……恐ろしいほどに板についていた」
子供時代の暁良をイメージで示す。表情は落ち着き払っている。周囲には暁良に付き従う使用人たち。
蘭子「でも今の暁良様は……ごく普通の青年のようだわ。贈り物選びに失敗したり、実家に帰った貴女を追いかけて行ったり」
桃寧のために奔走している暁良の姿。
桃寧「……」
蘭子「貴女が大切なのよ。貴女を幸せにしたいと思っている」
蘭子「まだ好きになってあげなくてもいいわ。ただ……暁良様のお気持ちも忘れないでいてあげてね」
頬を赤くする桃寧。
○夕方、離れの玄関。
辺りを箒で掃き清めている桃寧。
暁良「桃寧さん!」
手を振る暁良。
桃寧「あ……」
蘭子が「貴女が大切なのよ」といったことを思い出している。
桃寧「あ、あき……」※赤くなりながら
暁良「お茶会は楽しかったですか?」
桃寧「ええ、はい……」
暁良「それは良かった」
贈り物の箱を差し出す暁良。
桃寧「これは……?」
暁良「桃寧さんは遅くに紅茶や緑茶を飲むと寝付けないとおっしゃっていたではありませんか」
桃寧「はい……」
箱を受け取る桃寧。
暁良「黒豆茶です。夜でも安心して飲めますよ」
桃寧「私の……ために……」
喜色を浮かべる桃寧。
暁良「はい。蘭子さんが教えてくれまして」
桃寧モノ『蘭子様──』
桃寧モノ『蘭子様は大切なお友達だけど──』
暁良「高級品質の黒豆茶ですよ。女性の美容にも良いのだと蘭子さんが」
桃寧モノ『暁良様の口から他の女性の名前を聞くと──なんだか──』
暁良「あの……もしや黒豆茶はお嫌いでしたか?」
桃寧「……?!」
ムッとした顔の桃寧。
桃寧「は、恥ずかしながら……黒豆茶なるものは初めて知りましたので……!」
暁良「え、ええと……?」
ぶっきらぼうな桃寧に困惑している暁良。
桃寧「べ、別に……なんでもございません……!」
暁良「なんでもないことは……ないのでは……?!」
桃寧「本当に、なにも……!しっ、失礼致しますわね!ごきげんよう!」
慌ただしく離れへと入っていく桃寧。
取り残され、呆然としている暁良。
桃寧モノ『恥ずかしい』
八千代に淹れてもらった黒豆茶を味わう桃寧。
桃寧モノ『暁良様の口から他の女性の名前を聞いて──私、嫉妬した』
布団の中で眠れない様子の桃寧。
桃寧モノ『好きになんて……』
桃寧モノ『暁良様のことを好きになるはずなんてないのに』
顔を赤くしてぎゅっと目をつぶる桃寧のアップ。
○暁良の寝室。
寝付くことができず、ベッドで寝返りをうつ暁良。
ベッドの中で悶々としている。
眠れないまま夜が更けていく。
○朝。縁側から朝日を浴びる桃寧。
桃寧(結局……昨夜はうまく寝つけなかったわ……)
桃寧の顔にクマができている様子を示す。
暁良「おはようございます、桃寧さん」
桃寧モノ『暁良様……!』
暁良がやってきたことを示す。この時点で暁良の顔にはフォーカスしない。
桃寧モノ『なんだか──気まずい──』
サッと目を逸らす桃寧。
暁良「昨晩はちゃんと眠れましたか?黒豆茶の味はお嫌いではありませんでしたか?」
ハッと顔を上げる桃寧。
桃寧モノ『暁良様は──私のことを気遣ってくださっているのに──』
暁良「おや……もしや寝付けませんでしたか?他のお茶に変えてみた方が良いのでしょうか」
心配そうな暁良の顔。暁良の目元にもクマができている。
桃寧「……いえ、私……暁良様にあんな態度をとったことが恥ずかしくて……眠れなかったのです……」
苦しそうな表情の桃寧。
桃寧「暁良様ったら眠れないほどお忙しいのに……私……私……」
そんな桃寧を見て、目を見開く暁良。
ふっと笑みを漏らす暁良。
桃寧「なぜお笑いに……?!」
暁良「いえ、僕は貴女のことを考えていて眠れなかったのです。また僕は何か失敗してしまったのかなぁ、と」
桃寧「あ、貴方という方は……」
暁良「桃寧さんも一晩、僕のことを考えてくださったんですね」
桃寧「もう!知りません……!」
暁良「一晩でも貴女の心を独り占めできたなら、これ以上に嬉しいことはありませんね」
恥ずかしがる桃寧と、満足そうに微笑む暁良。二人を柔らかい日差しが包む。
離れの物陰に黒く蠢く蟲の存在を示す。
