○離れの縁側、朝
小箱を差し出されて、「またとんでもないプレゼントか」と顔をひくつかせる桃寧。

暁良「今日こそは……喜んでいただけると……」
やや緊張した面持ちの暁良。

桃寧はおずおずと小箱を開けてみる。そこには花などを模った色とりどりの和三盆が並んでいた。

桃寧「わぁ……!こ、これは……?」
暁良「和三盆です。どうぞ、お一つ」
顔を輝かせる桃寧と、穏やかな表情で説明する暁良。

緊張しながらも和三盆を口に運ぶ桃寧。

桃寧「なんと……優しい味わい……!」
口にじんわりと甘さが広がり、桃寧が笑顔になる。胸を撫で下ろす暁良。

暁良「これまでの……桃寧さんのことを思いやらぬ贈り物の数々……失礼しました」
申し訳なさそうな暁良。
桃寧モノ『もしかして……蘭子様が何かおっしゃったのかしら』

暁良「ひらひらしたドレスや……、バターを使った洋菓子は……桃寧さんには脂っこすぎましたよね……」
ケーキを食べて胸焼けを起こしている桃寧の絵。プレゼントの書籍は刺激が強い恋愛小説で、桃寧が読み進められなかったことを示す絵。レコードはソプラノオペラ歌手が高らかに歌い上げるもので、桃寧は気持ちよく聞くことができなかったことを示す絵。……など、上記の暁良のセリフを補完する情報を絵で示したい。

暁良「僕は自分が扱っている商品を……桃寧さんにも知ってもらいたいばかりに……」
桃寧「商品……でございますか?」

暁良「はい。僕は諸外国を相手に貿易をしているのです」
桃寧モノ『貿易──』

桃寧モノ『大和国は長らく鎖国を行なってきました』
大和国が諸外国を拒否するイメージを示す。

桃寧モノ『しかし諸外国の脅威を前に、大和国は開かれたのだと……お母様はおっしゃいました』
黒船がやってきて大和国の人々が驚いているイメージを示す。

桃寧「外国は……恐ろしゅうございます……」
暁良「なんの!恐ろしいことなどありません」
身をすくめる桃寧をフォローする暁良。

暁良「確かに西洋の科学や技術には驚かされるばかりです。しかし我が国も列強に追いつけば良いだけのこと」
汽車や鋼鉄の船を大和国が取り入れるイメージを示す。

桃寧「しかし……」
深刻そうな表情の桃寧の顔。

桃寧「開国によって大和国の気は乱れたと聞きましたが……」
気脈が乱れ、神職の人間が仕事に追われている様子を示す。

暁良「それは否定できません」
桃寧「……暁良様は政や神事だけでもお忙しいでしょうに……なぜ……」

暁良「愛しいものを、守るためです」
優しい表情で桃寧を見つめる暁良のアップ。

桃寧「……」
目を見開き、息を呑む桃寧。

暁良「今は外国と友好関係にありますが、それがいつまで保たれるかは分かりません。いざというとき……諸外国の脅威に負けないためにも、貿易は必須なのです」
毅然とする暁良と、それに見惚れる桃寧。

和服姿の男(孝久)が庭に入ってきたことを示すコマ。
孝久「脅威……?」

はっと振り返る暁良。

孝久「我が大和国が諸外国に脅かされることなど、あるはずがない」
引きで孝久の姿を示す。

暁良「孝久……おじさん」

暁良「なぜ、この建物に?」
暁良は口の端で笑みを作ってはいるが、顔に緊張感が滲み出ている。

孝久「いやあ、中央政府から急ぎの書類が回ってきたのでお使いをね」
孝久が書類を暁良に渡す。

暁良モノ『こんなもの、緊急でもなんでもない』
暁良がさらさらと書類に文字を書き込む。

暁良モノ『何を──しにきた──』
孝久「今代当主は大和が八百万の神々に守護された国だとお忘れのようだ」
孝久に書類を返す暁良。

暁良「……まさか。霧祓命を神降ろす覡に、今更そのようなことをおっしゃるので?」
孝久「ハハハ、それもそうだ」
にこやかな表情を浮かべながら、緊迫感のあるやりとりを交わす孝久と暁良。
桃寧モノ『このお二人──』

暁良「神威によって国の平穏は守られている。しかし神威の上に胡座をかいていてはならんということです」
孝久「だから外国人を国内にのさばらせると?まるで諸外国の狗ですなぁ」
桃寧モノ『まるで空気が──氷のよう──』

孝久「しかし、大和国……この霧賀領は強くあらねばならんという点には賛成です」
パッと笑顔を作る孝久。

孝久「どうかご当主にも強くあって欲しいものですな」
思わず孝久を睨む暁良。

孝久「……」
孝久が桃寧に視線を移す。

孝久「妻巫女様はまだ力が発現していないようで」
孝久の鋭い視線に、ゾッとした様子の桃寧。

孝久「先代のような『問題』が繰り返されなければよろしいですなあ」
清華と先代当主が背中を向け合っているイメージを示す。

孝久の背中を描き、孝久が離れから去っていくことを示す。

桃寧モノ『お母様は──先代当主が覚醒しなかったがために大きな負担を強いられた』
神事の後に清華が床に手をつき、脂汗をかいている様子。

桃寧モノ『今は暁良様が──お一人でこの霧賀領を支えている──』
暁良が神事を執り行っている様子。

桃寧モノ『私の力が発現しないために──お一人で──』
苦しそうな表情の桃寧。

暁良「……何も気にする必要はありません。無理して覚醒することはないのです」
穏やかな表情で桃寧に語りかける暁良。

桃寧「それでは暁良様が……」
暁良「ええ。僕がその分、働けば良いことですし」

桃寧モノ『──何もかも一人で背負いこむあなた』
膨大な書類や世界地図などに囲まれ、暁良が政や貿易を一人で背負い混んでいることをイメージで示す。

桃寧モノ『それなのに私のことは──甘やかしてばかり──』
たくさんの贈り物を渡す暁良と、それを受け取りきれない様子の桃寧をイメージで示す。

桃寧モノ『重荷を背負うあなたに──甘やかされるだけなんて──』
桃寧がぐっと手を握りしめる。

桃寧「そ……そういうの……良くないと、思います」
絞り出すように抗議する桃寧。

暁良「え……あの、僕はまた、何か間違いを……?」
焦ったような暁良の表情。

暁良「ええと……桃寧さんが安心できるように、僕はもっと頑張りますから……」
桃寧「ち、違います……!」

暁良「が、頑張りが……足りないということでしょうか……」
桃寧「んもう……知りません……!」
そっぽを向く桃寧。
慌てる暁良。
ほのぼのとした雰囲気の二人。

○孝久の自室
気に入らなそうな孝久の表情

孝久モノ『腑抜けた当主に気の弱そうな妻巫女──』
暁良と桃寧の絵。

孝久「あなたが本当に『強い当主』かどうか、試させてもらおうではありませんか」
ニヤリと笑う孝久。
強い風が吹く。