○雅旺院家の離れの縁側
桃寧モノ『お母様──』
ぼんやりと子猫が戯れるのを眺める桃寧。
桃寧モノ『神秘的な白髪に「運命の結婚相手」……。』
桃寧の母親がおっとり微笑んでいる絵を示す。
桃寧モノ『なにより、お母様に教えていただいた神楽──』
桃寧と暁良が舞っている絵。
桃寧モノ『妻巫女のみが舞うことを許されているのだとか』
桃寧モノ『お母様が先代の巫女でなければ……説明がつかない……』
八千代「桃寧様」
考え込む桃寧に、八千代が声をかける。
八千代「蘭子様がお見えですよ」
気まずい表情になる桃寧。
○離れの応接室
蘭子「うふふ!いかがでしたか?里帰りは」
桃寧「え、ええ……?なぜ……ご存知で……?」
にこやかな蘭子と、硬い表情の桃寧。
蘭子「いろいろありますわよね、運命のお相手だといっても」
桃寧「ええと……はい……」
桃寧(うまい受け答えが浮かびません……!また蘭子様を退屈させてしまうかも……)
追い詰められている表情の桃寧。背後では蘭子の使用人たちが荷物を開けている。
桃寧「あ、あの……今日は大荷物でいらっしたようですが……?」
蘭子「ええ、ご覧になってちょうだい」
使用人たちが何着もの着物を広げて見せる。どれも大人しめの色地・柄も控えめ・上品だが派手ではない。
桃寧「わ…………!」
控えめながら顔を輝かせる桃寧。
蘭子「取り入れやすい色を中心に選んだのよ。柄も控えめでしょう?」
着物を一つ手に取って魅力を語る蘭子。
桃寧の着物の袖(薄汚れ、擦り切れている)を見て、目を細める。
蘭子「柄も良いけれど……紬だから丈夫なのよ。これを着て掃除や洗濯をしたって平気」
桃寧「……!」
驚いて顔を上げる桃寧。
蘭子「あと……こちらご覧になって!割烹着なる装束よ。着物の上に着れば袖が邪魔にならないのですって」
胸元にレースがついた可愛い割烹着を見せる蘭子。
桃寧「ら……蘭子様……!」
蘭子「選んだ装いにぴったりな髪飾りも求めましたのよ!早速お試しになって!」
感動した様子の桃寧と、さらにリボンや櫛を広げる蘭子。
新しい着物に着替え、髪を結い直した桃寧。髪は編み込みでアップにし、リボンを結んでいる。このコマ以降、桃寧の姿は新しい上品な着物、髪型は白髪を編み込みアップ・リボン着用をベースとする。
蘭子「あら〜あ!良いではありませんの!贈り甲斐があるというものです」
桃寧「しかし……」
満足げに微笑む蘭子と遠慮がちな桃寧。
蘭子「早めの結婚祝いとでも思ってくださいまし」
桃寧「結婚……」
少し複雑そうな表情をする桃寧。
蘭子「まあ、結婚に不安がおあり?」
桃寧「不安と申しますか……先代のことで……」
蘭子「ああ、先代には問題がおありでしたものね」
蘭子モノ『問題──』
桃寧「そ、それは……」
蘭子「そのせいで暁良様は妻巫女を娶らぬうちにご当主となり……一人で霧賀領をお支えになっている」
当主となったときの暁良(16歳)の絵。たくさんの人間に傅かれている。
蘭子「政も大変でしょうけれど、一人で霧賀領の霊力を安定させることは並大抵のことではありません」
暁良の霊力が霧賀領全体に行き渡っているイメージを示す。
蘭子「ただ当主は辛く孤独ですけれど……桃寧様ならご立派に奥方を務められると思いましてよ」
ふんわり微笑んで桃寧を見つめる蘭子。
桃寧「私よりも……蘭子様の方がずっと……暁良様に相応しいように思えますが」
蘭子「どうして?」
自信なさげな表情の桃寧。
桃寧「美しくて素敵で……私、蘭子様に嫉妬して里帰りしてしまったほどで……」
蘭子「わかるわ……。私があまりに完璧だから皆様にはよく妬まれますのよ」
悩ましげにため息をつく蘭子。
桃寧モノ『これが本物の……お嬢様……!』
蘭子「でもね。だからって暁良様に嫁ぐなんて絶対イヤ」
桃寧「ええっ。あれほどすごいお方なのに……」
蘭子「桃寧様のことしか見ておられないのよ?」
桃寧モノ『それは私が「運命の花嫁」だから……』
桃寧「……」
桃寧モノ『それに……私は暁良様からの贈り物が……似合う娘じゃ……ない……』
俯く桃寧。
蘭子「……贈り物にはね、二種類あるのよ。相手を想い、相手が望むことを思いやる贈り方」
桃寧モノ『蘭子様は家事をする私を慮って着物を選んでくれた──』
蘭子「もう一つは──ただ自分の愛をぶつけるだけの贈り方。暁良様はこれね」
桃寧「……」
モノローグの背景に豪華な着物や西洋の菓子などのプレゼントと、それを贈られて狼狽えている桃寧を示す。
蘭子「とにかく価値の高いものを贈りたいと思われたのでしょうね。ご自分が手に入れられる最高の品で、桃寧さんを喜ばせようとしたのよ」
桃寧「……」
派手な着物やドレスを懸命に選ぶ暁良のイメージを示す。
蘭子「……でも、貴女の趣味には合わなかったのでしょう?」
桃寧「ええと……どれも手にする自信がなかったといいますか……」
困ったように言い訳をする桃寧。
蘭子「それよ!結局は相手が喜ぶことよりも、自分が何を贈りたいかを優先したということよ」
憤慨した様子の蘭子。
蘭子「そんな贈り物は突っぱねればよろしいの。そして貴女ご自身は何がお好きなのか、暁良様にちゃんと教えて差し上げるのよ」
目を丸くする桃寧。
蘭子「いい?運命の花嫁といったって、ちゃんと話さなければ分からないわ」
蘭子「不安も不満も、暁良様にお話しになってみて。聞き入れてくれないようなら、三行半でも叩きつけてやれば良いのよ」
蘭子の発言を受けて何かを決意したような、真剣な眼差しの桃寧。
○離れの庭、夕方。
暁良「……」
桃寧「……」
新しい着物姿の桃寧を見て目を見開いている暁良と、気恥ずかしそうに俯く桃寧。
暁良「……ええと、その。……お似合いです」
桃寧「あ……ありがとう……存じます……」
暁良が顔を赤らめらめながら褒める。
暁良「桃寧さんはいつも素敵だけれど……新しい装いは貴女の魅力を一層引き出しているというか……」
桃寧「あ……っ、あの、その辺で……!」
真剣な顔で賛辞を並べる暁良に、いたたまれなくなる桃寧。
しばらく無言で見つめ合う二人。
自然とお互いが手を差し出し合う。
手を繋いで庭を歩く二人。穏やかな表情。
しかし桃寧がふと立ち止まる。
桃寧「──あ、あの」
桃寧「先代には……問題があったと聞きました……」
覚悟を決めたような表情の桃寧に、暁良も表情を引き締める。
暁良「先代は──覡としての力が発現しなかったのです」
神職の装束を着た中年の白髪男性のイメージを示す。
桃寧モノ『力に目覚めなかった──雅旺院家の前当主──』
暁良「先代の当主は雅旺院勝明、その妻巫女は清華さん。二人は結婚して勝明氏は当主となりました。しかし勝明氏は霊力が振るえないためほとんどの神事を清華さんが請け負い──」
結婚した勝明と清華。神事に励む清華の傍らで後ろを向いている勝明のイメージを示す。
暁良「その数年後には清華さんが失踪。勝明氏は激怒して彼女に関するものをすべて破棄してしまっています」
失踪する清華のイメージと、勝明が怒って書類や写真、着物などを燃やしているイメージを示す。
暁良「だから先代の清華さんと桃寧のお母様が同一人物なのか、確証がないのです」
桃寧モノ『ああ。調べてくれたのだ。手を尽くしてくださったのだ──』
心動かされた様子の桃寧。
暁良「──清華さんの失踪以後、彼女のご実家は雅旺院家を毛嫌いしています。だから僕には踏み込むこともできませんが──」
暁良モノ『桃寧さんが傷つくことになるかもしれない』
真剣なまなざしで説明をする暁良。
暁良モノ『本当は安全なところで笑っていてほしいのに』
日の光に照らされて微笑んでいる桃寧の絵。
暁良モノ『それでも彼女が知りたいと望むのなら──』
覚悟を決めた表情の暁良。
暁良「今代の巫女である貴女なら、ご実家のお話を聞けるかもしれない」
大きく目を見開く桃寧。
目を閉じて決心した様子の桃寧。
桃寧「ぜひ──お伺いしたいと思います」
桃寧が目を開く。真剣な表情。
風が吹き、木の葉が舞っている。
桃寧モノ『お母様──』
ぼんやりと子猫が戯れるのを眺める桃寧。
桃寧モノ『神秘的な白髪に「運命の結婚相手」……。』
桃寧の母親がおっとり微笑んでいる絵を示す。
桃寧モノ『なにより、お母様に教えていただいた神楽──』
桃寧と暁良が舞っている絵。
桃寧モノ『妻巫女のみが舞うことを許されているのだとか』
桃寧モノ『お母様が先代の巫女でなければ……説明がつかない……』
八千代「桃寧様」
考え込む桃寧に、八千代が声をかける。
八千代「蘭子様がお見えですよ」
気まずい表情になる桃寧。
○離れの応接室
蘭子「うふふ!いかがでしたか?里帰りは」
桃寧「え、ええ……?なぜ……ご存知で……?」
にこやかな蘭子と、硬い表情の桃寧。
蘭子「いろいろありますわよね、運命のお相手だといっても」
桃寧「ええと……はい……」
桃寧(うまい受け答えが浮かびません……!また蘭子様を退屈させてしまうかも……)
追い詰められている表情の桃寧。背後では蘭子の使用人たちが荷物を開けている。
桃寧「あ、あの……今日は大荷物でいらっしたようですが……?」
蘭子「ええ、ご覧になってちょうだい」
使用人たちが何着もの着物を広げて見せる。どれも大人しめの色地・柄も控えめ・上品だが派手ではない。
桃寧「わ…………!」
控えめながら顔を輝かせる桃寧。
蘭子「取り入れやすい色を中心に選んだのよ。柄も控えめでしょう?」
着物を一つ手に取って魅力を語る蘭子。
桃寧の着物の袖(薄汚れ、擦り切れている)を見て、目を細める。
蘭子「柄も良いけれど……紬だから丈夫なのよ。これを着て掃除や洗濯をしたって平気」
桃寧「……!」
驚いて顔を上げる桃寧。
蘭子「あと……こちらご覧になって!割烹着なる装束よ。着物の上に着れば袖が邪魔にならないのですって」
胸元にレースがついた可愛い割烹着を見せる蘭子。
桃寧「ら……蘭子様……!」
蘭子「選んだ装いにぴったりな髪飾りも求めましたのよ!早速お試しになって!」
感動した様子の桃寧と、さらにリボンや櫛を広げる蘭子。
新しい着物に着替え、髪を結い直した桃寧。髪は編み込みでアップにし、リボンを結んでいる。このコマ以降、桃寧の姿は新しい上品な着物、髪型は白髪を編み込みアップ・リボン着用をベースとする。
蘭子「あら〜あ!良いではありませんの!贈り甲斐があるというものです」
桃寧「しかし……」
満足げに微笑む蘭子と遠慮がちな桃寧。
蘭子「早めの結婚祝いとでも思ってくださいまし」
桃寧「結婚……」
少し複雑そうな表情をする桃寧。
蘭子「まあ、結婚に不安がおあり?」
桃寧「不安と申しますか……先代のことで……」
蘭子「ああ、先代には問題がおありでしたものね」
蘭子モノ『問題──』
桃寧「そ、それは……」
蘭子「そのせいで暁良様は妻巫女を娶らぬうちにご当主となり……一人で霧賀領をお支えになっている」
当主となったときの暁良(16歳)の絵。たくさんの人間に傅かれている。
蘭子「政も大変でしょうけれど、一人で霧賀領の霊力を安定させることは並大抵のことではありません」
暁良の霊力が霧賀領全体に行き渡っているイメージを示す。
蘭子「ただ当主は辛く孤独ですけれど……桃寧様ならご立派に奥方を務められると思いましてよ」
ふんわり微笑んで桃寧を見つめる蘭子。
桃寧「私よりも……蘭子様の方がずっと……暁良様に相応しいように思えますが」
蘭子「どうして?」
自信なさげな表情の桃寧。
桃寧「美しくて素敵で……私、蘭子様に嫉妬して里帰りしてしまったほどで……」
蘭子「わかるわ……。私があまりに完璧だから皆様にはよく妬まれますのよ」
悩ましげにため息をつく蘭子。
桃寧モノ『これが本物の……お嬢様……!』
蘭子「でもね。だからって暁良様に嫁ぐなんて絶対イヤ」
桃寧「ええっ。あれほどすごいお方なのに……」
蘭子「桃寧様のことしか見ておられないのよ?」
桃寧モノ『それは私が「運命の花嫁」だから……』
桃寧「……」
桃寧モノ『それに……私は暁良様からの贈り物が……似合う娘じゃ……ない……』
俯く桃寧。
蘭子「……贈り物にはね、二種類あるのよ。相手を想い、相手が望むことを思いやる贈り方」
桃寧モノ『蘭子様は家事をする私を慮って着物を選んでくれた──』
蘭子「もう一つは──ただ自分の愛をぶつけるだけの贈り方。暁良様はこれね」
桃寧「……」
モノローグの背景に豪華な着物や西洋の菓子などのプレゼントと、それを贈られて狼狽えている桃寧を示す。
蘭子「とにかく価値の高いものを贈りたいと思われたのでしょうね。ご自分が手に入れられる最高の品で、桃寧さんを喜ばせようとしたのよ」
桃寧「……」
派手な着物やドレスを懸命に選ぶ暁良のイメージを示す。
蘭子「……でも、貴女の趣味には合わなかったのでしょう?」
桃寧「ええと……どれも手にする自信がなかったといいますか……」
困ったように言い訳をする桃寧。
蘭子「それよ!結局は相手が喜ぶことよりも、自分が何を贈りたいかを優先したということよ」
憤慨した様子の蘭子。
蘭子「そんな贈り物は突っぱねればよろしいの。そして貴女ご自身は何がお好きなのか、暁良様にちゃんと教えて差し上げるのよ」
目を丸くする桃寧。
蘭子「いい?運命の花嫁といったって、ちゃんと話さなければ分からないわ」
蘭子「不安も不満も、暁良様にお話しになってみて。聞き入れてくれないようなら、三行半でも叩きつけてやれば良いのよ」
蘭子の発言を受けて何かを決意したような、真剣な眼差しの桃寧。
○離れの庭、夕方。
暁良「……」
桃寧「……」
新しい着物姿の桃寧を見て目を見開いている暁良と、気恥ずかしそうに俯く桃寧。
暁良「……ええと、その。……お似合いです」
桃寧「あ……ありがとう……存じます……」
暁良が顔を赤らめらめながら褒める。
暁良「桃寧さんはいつも素敵だけれど……新しい装いは貴女の魅力を一層引き出しているというか……」
桃寧「あ……っ、あの、その辺で……!」
真剣な顔で賛辞を並べる暁良に、いたたまれなくなる桃寧。
しばらく無言で見つめ合う二人。
自然とお互いが手を差し出し合う。
手を繋いで庭を歩く二人。穏やかな表情。
しかし桃寧がふと立ち止まる。
桃寧「──あ、あの」
桃寧「先代には……問題があったと聞きました……」
覚悟を決めたような表情の桃寧に、暁良も表情を引き締める。
暁良「先代は──覡としての力が発現しなかったのです」
神職の装束を着た中年の白髪男性のイメージを示す。
桃寧モノ『力に目覚めなかった──雅旺院家の前当主──』
暁良「先代の当主は雅旺院勝明、その妻巫女は清華さん。二人は結婚して勝明氏は当主となりました。しかし勝明氏は霊力が振るえないためほとんどの神事を清華さんが請け負い──」
結婚した勝明と清華。神事に励む清華の傍らで後ろを向いている勝明のイメージを示す。
暁良「その数年後には清華さんが失踪。勝明氏は激怒して彼女に関するものをすべて破棄してしまっています」
失踪する清華のイメージと、勝明が怒って書類や写真、着物などを燃やしているイメージを示す。
暁良「だから先代の清華さんと桃寧のお母様が同一人物なのか、確証がないのです」
桃寧モノ『ああ。調べてくれたのだ。手を尽くしてくださったのだ──』
心動かされた様子の桃寧。
暁良「──清華さんの失踪以後、彼女のご実家は雅旺院家を毛嫌いしています。だから僕には踏み込むこともできませんが──」
暁良モノ『桃寧さんが傷つくことになるかもしれない』
真剣なまなざしで説明をする暁良。
暁良モノ『本当は安全なところで笑っていてほしいのに』
日の光に照らされて微笑んでいる桃寧の絵。
暁良モノ『それでも彼女が知りたいと望むのなら──』
覚悟を決めた表情の暁良。
暁良「今代の巫女である貴女なら、ご実家のお話を聞けるかもしれない」
大きく目を見開く桃寧。
目を閉じて決心した様子の桃寧。
桃寧「ぜひ──お伺いしたいと思います」
桃寧が目を開く。真剣な表情。
風が吹き、木の葉が舞っている。
