◯暁良が住んでいる本宅の大広間。
正装をして暁良と並ぶ桃寧。大勢の人に囲まれ、ぎこちない笑みを浮かべている。

モブ妻「力を顕現された奥様にお会いできて光栄ですわ」
モブ夫「私は百貨店を経営しおりましてな、本日は麗しい奥方様に選りすぐりの品をお持ちしましたぞ」

桃寧モノ『こちらの皆さんは雅旺院の分家の方々です』
桃寧「私も皆様とお会いできて嬉しゅうございます」※控えめに微笑む

桃寧モノ『私の力が発現したことは、お屋敷に戻って早々に発表されました』
力が発現した瞬間のコマを挟む。

桃寧モノ『すると瞬きする間もなく、分家の皆様がご挨拶にいらして……』
本宅に人が押し寄せているイメージを示す。

桃寧モノ『なし崩し的に私のお披露目会と相なったのでございます』

暁良「桃寧さん、嫌になったらお部屋に戻っていただいても……」※小声で
桃寧「いえ……私、暁良様をおそばでお支えすると決めましたので……!」
覚悟を決めた表情の桃寧。

桃寧「夫婦で支え合うので……でございましょう?」

桃寧に真っ直ぐ見つめられ、暁良の耳が赤くなる。

暁良「はい……!」
ニヤけた口元を隠そうとする暁良。
桃寧『暁良様のこんな表情に』

桃寧モノ『心がこんなにも温かくなってしまうだなんて──』
微笑み合う桃寧と暁良を邪魔するように、孝久が姿を現す。
孝久「実に仲がよろしゅうございますなぁ」

暁良「……おかげさまで、この雅旺院家の未来も明るいですよ」
暁良がスッと笑顔を作る。当主らしい壁を感じさせる笑み。

暁良が孝久の頬にできた切り傷(呪い返しでできた傷)を見つけ、表情が一気に冷ややかになる。
暁良「……おや、おいたをして天罰でも下りましたかな」

桃寧は暁良の冷たい視線にゾッとする。
一方、孝久は暁良の視線を気にも留めない。

孝久「はは、おもちゃで遊んでいたら怪我をしてしまいました」
暁良「……大怪我をする前に、そんなつまらない遊びはやめた方がいい」
孝久「まさか、もう懲り懲りですよ」

孝久が暁良との距離をぐっと詰める。
孝久「私は強い当主を欲しただけです。戯れかかっただけで倒れるような弱い人間は、この霧賀領を治める雅旺院に必要ない」
暁良「……」

孝久がちらりと桃寧に目をやる。
会話の意味がわからなくてキョトンとしている桃寧。

孝久「……ですがお二人ならば、どうにか立っていられるようだ。奥方様を大事にされるがよろしい。強い当主になら、私は喜んでついていきますよ」
立ち去る孝久に、苦々しい表情の暁良。よくわかっていない桃寧。

桃寧のために笑顔を作る暁良。
暁良「……怖がらせてしまいましたね」
桃寧「そ……そんなこと……」

暁良「大丈夫です。貴女は僕が守りますから」

桃寧がちょっと寂しい顔をする。それに気づいた暁良。

暁良「……いえ。僕も貴女を頼りにしていますよ」

嬉しそうに頷く桃寧。

新たにひと組の夫婦(暁良の両親)が挨拶にやってくる。暁良が当主らしい表情に戻る。
父親「この度は無事に奥方を迎えられたこと、心よりお喜び申し上げます」
暁良「丁寧なご挨拶、痛み入ります」
双方、神妙な顔をしてお辞儀を交わす。

チラリと暁良の顔をのぞき込み、ほっとする桃寧。
桃寧(良かった、いつもの暁良様に戻ってる……)

暁良と父親が挨拶を交わすなか、母親がじっとこちらを見つめていることに気づく。
気まずくなった桃寧が口をひらく。
桃寧「不束者ですが……どうぞよろしくお願いいたします」

母親は桃寧の手を優しく取ると、拝むように深々とお辞儀をする。
母親「……こちらこそ……どうか当主様を……よろしくお願いいたします……」

去り際、父親が桃寧の顔を見て優しく微笑む。

挨拶を終えて去っていく暁良の両親。その姿を見つめながら、桃寧がポツリと尋ねる。
桃寧「あのお二人は……」

暁良「ああ、僕の両親です」※なんでもないことのように
桃寧「ええ?!ご、ご両親……?!」

暁良「とは言っても僕はもう本家に入ってしまったし、分家当主と筆頭当主としての付き合いしかしてないですけどね」
桃寧「……」

桃寧モノ『縋るように頭を下げたお義母様……。愛しむように微笑んでくださったお義父様……。当主として距離をとりながらも……暁良様のことを想っている……』

チラリと暁良の顔を見る桃寧。
暁良は当主らしい微笑みを浮かべ、また別の人と挨拶を交わしている。

桃寧モノ『ご両親の愛情は……どれほど暁良様に伝わっているのかしら……』
桃寧「愛されておられること、暁良様はお分かりで……?」

暁良「えっ?!僕たちが愛し合っているという話ですか?!」
完璧だった表情が崩れ、喜色満面になる暁良。
蘇芳&八千代(あっ……暁良様〜!!)
暁良の表情を分家の人々から隠そうとする蘇芳と八千代。

○離れの応接室。
ティーカップを傾ける蘭子。
蘭子「あまり背負いすぎてはダメよ」
桃寧「はい……」※疲労困憊な様子で

蘭子「どうせ親族の顔を覚えきれなかったとか、暁良様たちの会話についていけなかったとか、そんなところでしょう?」
桃寧(お見通しだわ……!)

蘭子「力の発現を公表したってことは……妻巫女として生きると覚悟したのでしょう? だけど、誰だってすぐになんでもできるようにはならないの。ゆっくり、妻になっていけばいいのよ」

桃寧「……はい。蘭子様にはいつも助けていただいて……」
蘭子「そうだったかしら」

桃寧「穢れ地に赴いたときも蘭子様のお声を聞いたような気がしたのです。すすき達を連れて行けと……。もしお声を聞かなかったら、きっと暁良様をお助けすることはできませんでした」
蘭子「……」

蘭子モノ『それはあなたがリボンをつけていてくれたから』
桃寧が頭につけているリボンにフォーカスした絵。

蘭子モノ『縁を結ぶ術をかけたリボン。どんな形であれ、結ばれている限りは私と縁を繋いでくれる──』
リボンを通して、桃寧と蘭子が縁で繋がっているイメージを示す。

蘭子モノ『でも私のメッセージが届くかは賭けのようなものだった──』
無垢な桃寧の顔を見て、ふっと笑う蘭子。

蘭子「それは助けたうちに入らないわね。だって、貴方がたに犬神を仕掛けたのは私のお父様なのだし」
桃寧「ええ?!なんっ……ど、どうして……」

蘭子「暁良様とお父様は諸外国への政治的態度が違うの。お父様は海外の勢力が大和国に入り込んでほしくない」
暁良と孝久が違う方向を見ていることを絵で示す。

蘭子「そして……国内で変革が起こっている今、混乱を招かないよう強い当主が必要だと思っている」

桃寧「あ……」
挨拶の場で孝久が「私は強い当主を欲しただけです」と言ったのを思い出す。

桃寧「そ、その……強いというのは、拳で……?」
蘭子「強いというのは腕力のことではありませんのよ?!」

咳払いをする蘭子。

蘭子「当主に求められる強さは……霊力だけではなくってよ」
蘭子の背後にチェックリストを示す。①不測の事態に陥った時の対応力、②窮地で人を動かす人徳、③謀略に引っかからないだけの情報収集、などなど

よくわからないなりに、感心する桃寧。

蘭子「まあでも、安心して。お父様はもう貴方がたにちょっかいをかけないと思うわ。お二人で窮地を乗り越えたのだし、流石にお認めになったでしょ」

桃寧「……蘭子様は、お父様のことを妨害されたということですよね。よろしかったのですか……?」

己の黒髪を弄び、しばし沈黙する蘭子。

蘭子「……私はね、雅旺院の家に生まれたおかげで、幼い頃から最高級のものに囲まれて育ったわ」
桃寧「は、はぁ……」※いきなりの話題転換に戸惑う桃寧。

蘭子「最高を知っていたから、私の世界はつまらなかった。どんなに素敵なものを見ても、これ以上のものには巡り会えないんだって思ったら……ね」

蘭子「でもね──」
蘭子がティーカップを掲げる。

蘭子「暁良様が舶来のお茶を振る舞ってくださったとき……私の世界は広がったのよ」

茶器や紅茶の缶に蘭子がときめいている様子を絵で示す。
蘭子「見たことのない茶器に瑞々しい香りの紅茶……!全てを知ったつもりでいたけれど、世界はもっと広いんじゃないかって気がついたの」

生き生きとした笑顔を見せる蘭子に、見惚れる桃寧。

蘭子「別に西洋かぶれになったわけではないわ。改めて大和の美術品を勉強しなおしたらこちらの魅力も再発見しちゃったわけだし」
着物や大和の皿などを見て顔を輝かせる蘭子の絵。

蘭子「西洋の方もね、大和の着物や食器をたくさん買っていかれるそうよ」

桃寧に向き直り、真っ直ぐに目を見つめる蘭子。

蘭子「私も美しいものを通して、いつか西洋と日本の架け橋になってみたいの」
桃寧モノ『だから……蘭子様は暁良様のお味方を──』

蘭子「でもお父様は許さないだろうから……これは二人だけの秘密にしていただける?」
桃寧「……はい!」※蘭子から初めて何かをお願いされて、嬉しそうに。

微笑み合う桃寧と蘭子。バックで応接室のドアがノックされる音がする。

八千代「暁良様がお越しです」

蘭子「んまあ!それではお邪魔虫はこれにて退散!」
桃寧「蘭子様ったら……!」

桃寧と暁良が見送り、楽しそうに蘭子が帰っていく。

どちらともなく、手を繋ぐ二人。

暁良「お会いできない間、僕の心ははち切れそうでしたよ」
桃寧「あ、朝もご一緒したではありませんか……」※恥ずかしそうに

暁良「ひとときも離れたくないと思っているのは僕だけでしょうか」
桃寧「も……もう……!」※真っ赤になる

庭を歩く二人の絵。

桃寧モノ『お母様。桃寧は楽しく過ごしております』
二人で花を見つめる絵。

また仕事に戻る暁良を見送る桃寧。

桃寧モノ『まだ難しい言い回しは理解できませんが……』
孝久と暁良が睨み合っているコマを挟む。

桃寧モノ『いろんな方がおられますもんね』
分家の人間たちなど、これまでに登場した人物の絵。

桃寧『少しづつ理解していければと思います』
桃寧と蘭子がお茶を飲んで微笑みあっているコマ。

桃寧モノ『そう、少しずつ……』
モノローグの背景を黒塗りにするなどして、不穏な雰囲気を作りたい。

白髪の男の後ろ姿の絵。

老夫婦が白髪の男に何か話しかけている。

白髪の男「清華の……娘だと?!」