○自動車の後部座席に座っている暁良と桃寧。

桃寧モノ『突然ですが、出張です』
自動車の窓から外を見つめる桃寧。

桃寧モノ『霧賀領の北端へと』
霧賀領の地図を示す。

桃寧モノ『いきなりのことで、私もびっくりしています……』
目を閉じて今朝のことを振り返る桃寧。

○離れの庭、朝。回想。
手を繋いで朝の散歩をしている。
暁良「今日から一週間ほど出張に行ってきます。お土産を探してくるから、楽しみにしていてください」
桃寧「出張……ですか……?」

暁良「ええ。神事を執り行うのに、どうしても現地に行かなくてはならなくて」
桃寧「神事なら、私もお役に立てるのではありませんか?霊力とかはまだわかりませんが……一応は巫女なのですし……」

暁良「……いや、これから行くのは穢れ地の清めですから」
桃寧モノ『穢れ地──』

桃寧モノ『お母様から聞いたことがございます。それは人の負の感情によって穢された土地……。穢れ地はさらに怨念を取り込もうと、人に害をなすのだと』
人間の恨みや怨念などが土地に染みついているイメージを示す。

桃寧「でしたら尚更……」
暁良「いや、これは楽しくない仕事だから。僕はお嫁さんには安全な場所で笑っていてほしいんです」

桃寧「なにをふざけて──」
蘇芳「失礼致します!」
桃寧が反論しかけたところに蘇芳が乱入。

蘇芳「出張先より電報……!『奥方様にご挨拶できるのを楽しみにしております』と……!」
電報を読み上げる蘇芳。

暁良「……あちらは桃寧さんが帯同すると思っている?」
蘇芳「そのようで……。修正の電報も間に合わず……」
何やら真面目な雰囲気で話し合う暁良と蘇芳。

桃寧モノ『どうやら出張先には、穏便にお付き合いしたい有力者がいらっしゃる様子』
二人の様子をじっと見つめる桃寧。

桃寧モノ『私には力もなく奥方ですらありませんが……ご挨拶ならできると……思います……!』
ぐっと決意を固める桃寧の表情。

桃寧「わ、私も……ご一緒させてくださいまし……!」
暁良「えっ……」

桃寧モノ『私だってお役に立ちたい』
桃寧「お願いでございます……!」
「つまらないよ?」と説得する暁良と、粘る桃寧。

桃寧モノ『そうしてだいぶ無理を申してついてきたわけですが……』

○回想おわり。車中にシーンが戻る。桃寧の膝の上では子猫二匹が昼寝している。

外の景色を見て目を輝かせる桃寧。

暁良「何か目新しいものでもありましたか?」
桃寧「あ……えっと、私、霧賀山から出たことがございませんでしたから……!見るものすべてが新鮮で……!」

暁良「ああ、なるほど」
桃寧「山裾にはこれほど広い田んぼはございませんでした……!どれほどたくさんの稲穂が実るのでございましょう……。あ、あれは桑畑でしょうか?美しゅうございますね……!」
珍しくたくさん喋る桃寧を微笑ましく見つめる暁良。

桃寧「あ……いやだ、私、はしたのうございますね……。こんなにはしゃいで……」
恥ずかしそうに俯く桃寧。

暁良「……いいえ。貴女がたくさん話してくれるの、僕は好きです」
微笑む暁良と、好きという言葉に真っ赤になる桃寧。

ふと暁良の顔から微笑みが消える。
窓から景色を眺める暁良の後ろ姿。

桃寧モノ『暁良様……?』
暁良の表情を覗き込もうとする桃寧。

暁良「その……霧賀領というのは自分にとって『守るべき場所』で……、美しいとか、そういった視点で見たことがないのです」
重責を感じさせる表情。桃寧もつられて寂しそうな顔になる。

暁良「だから桃寧さんが教えてくれませんか。霧賀領のどんな風景が良いと感じるのか」
笑顔を取り繕う暁良。

桃寧も気を取り直し、再び喋り始める。
桃寧モノ『好きとか、運命とか、巫女とか関係なく』

桃寧モノ『貴方のそばで、貴方が背負うものを少しでも軽くしてあげられたら……私は──』
笑い合う暁良と桃寧の絵。

○宿の一室、夜
豪勢な和室。卓上には大量のご馳走。外は夜であることを示す。
老人「いやあ!ここまで遠かったでしょう!」
歓迎モードの老人。立派な身なりをして、側には使用人を控えさせている。権力者であることを示す。

老人「ご当主には毎年お越しいただいて申し訳ないですな!」
老人が豪快に笑い、暁良の盃に酒を注ぐ。
桃寧モノ『この方が北の有力者……』

暁良「貴方には日頃から……」
老人「いやいや、堅苦しいことは結構!まま、飲んでくだされ!奥方様もいかがかな?」
桃寧「いえ……私、お酒は……」

桃寧(気難しい人かと思って覚悟してきたけれど……違う意味で大変な人でいらっしゃるわ……)
気圧される桃寧。

老人「これで穢れ地を管理する苦労も吹き飛びますわい!」
にかりと笑いかける老人。
暁良「申し訳ない」※苦笑して

老人「なんの!ご当主が大変なのは知っとります。この広大な霧賀領の統治、一人で治めるのは……骨が折れましょう」
暁良「……」

老人「……今日は心配性の老骨を安心させようと、奥方様を連れてきてくださったのでしょう。急なことで驚きましたが」
何かに気づいた様子の暁良。

老人「奥方様にお会いできればとは思っておりましたが、まさかそれがいきなり叶うとは」
暁良「……ええ」※微笑みをキープしながら
暁良モノ『桃寧さんに会わせろという電報は……彼が打たせたものではない──?』

暁良モノ『何者かに介入されたか──』
老人、桃寧の目を見て優しく言う。
老人「ここには厄介な穢れ地もありますが、美しい場所もたくさんあります。どうか楽しんでいってくだされ」
桃寧「……はい!」

老人が笑っているコマ、暁良が盃を干すコマを挟み、会食が和やかに進んだことを示す。

老人「いやいや、新婚さんを長く引き留めるのは無粋ですな!良い部屋を用意したので、旅の疲れを癒してくだされ!」

桃寧が頭を下げ、老人の前を辞する。


○用意された宿の部屋。
桃寧「まぁ、なんて素敵なお部屋──」
布団が二つ並べられているのを発見し、硬直する二人。

暁良「いっ、いやいや!僕は廊下で寝るから!桃寧さんは安心してこの部屋を使ってください!」
桃寧「そっ……そんな、明日は穢れ地のお清めではありませんか!暁良様がちゃんと寝なくてどうするのです!」
慌てて部屋の外に出ようとする暁良と、それを引き止める桃寧。

桃寧「それに!山で……私たち……一晩一緒に過ごしたではありませんか……」
暁良「それは……そうっ……ですがっ……」
お互いに顔を真っ赤にする二人。

二人の間に沈黙が降りる。
桃寧の目が泳ぎ、暁良がごくりと喉を鳴らす。

桃寧「さ……!さあさあ、横になって……」
沈黙を破り、桃寧は暁良を無理やり寝かせようとする。

暁良「しかし……」
渋々、布団に横になる暁良。

暁良「やはり僕は廊下で──」
横になった暁良に、すかさず掛け布団をかける桃寧。

桃寧がオリジナルの子守唄(すすきとやなぎの歌)を歌い始める。布団の上からぽんぽんと優しく暁良の胸を叩く。

清華が幼い頃の桃寧に子守唄を歌っているコマを挟む。穏やかな表情で桃寧を見つめる清華と、幸せそうに眠る桃寧。

暁良「桃寧……さん……?」
桃寧「母直伝の子守唄でございます……!暁良様が眠りに落ちるまで、歌い続けますから……!」
恥ずかしそうな表情をしながらも、はっきりと言い切る桃寧。

桃寧「聞きたくないとおっしゃってもやめませんから……!」
びっくり顔の暁良。

再び歌い始める桃寧。

暁良モノ『こんな子どもみたいな扱い、実の母親にもされたことがないのに』

暁良の表情が、どんどんリラックスしたものになっていく。

暁良モノ『お嫁さんが現れたらいっぱい優しくしてあげようと、子供の頃に誓った』
子ども時代の寂しげな表情の暁良。

暁良モノ『でも優しくしてもらうことなんて、想像したことなかったな』
寝息をたて始める暁良。

暁良『大切な人』
穏やかな顔をしている桃寧のアップ。

暁良モノ『君が──君こそが──僕の愛。僕の希望──』
寝かしつける桃寧と、眠りにつく暁良の絵。

夜が静かに更けていく様子(美しい星空など)。

夜の闇の中を獣が走り過ぎる。

瘴気が獣に絡みつき、獣を締め付ける。

息絶える獣。

穢れ地で瘴気が渦巻き、その中で凶悪そうな四足獣が唸っている。