弁当のありがたみを、俺は今日ほど感じた事はない。次の日の昼休み、俺は席を立つことなく昼飯にありついた。母さん、いつもありがとう。
昨日帰宅したら、足首が見事に腫れていた。昼間保健室に行こうかとも思ったけど、目視したらかえって痛みが増すと思ったので――熱っぽい時実際に高温を認識すると体調悪化する的な――帰るまで一度も見なかった。
一晩寝てる間に湿布してだいぶ腫れはひいたし、家でガチガチにテーピングしてきたので、歩くのも昨日ほど辛くない。
昼休みが終わる前にトイレに立つ。これも昨日は大変だった。「大きいほう」と思われたくないので個室に入るのを我慢し、万一よろめいて大惨事にならないよう神経を張りつめた。
無事に用を足し終え外に出ると、見覚えのある顔が待っていた。
「えっと・・・佐々倉だっけ?」
「神木先輩」
「え、なに?」
「今日もバスで帰りますか?」
「あー・・・そのつもりだけど」
「何時頃ですか?」
「4時くらい、かな」
「それじゃ・・・4時6分発のバスに乗ってもらえませんか
相談したい事があります」
「おぉ、わかった」
「ありがとうございます、失礼します」
言われたとおり4時6分発のバスに乗ろうと、少し早めにバス停に来たものの、佐々倉の姿はない。1分前になっても現れない。
おいおい、人に指図しておいてどういう了見だ、バスもう来てるんだけど。来るまで待ってたほうがいいのか?いや、別に話は今日じゃなくてもできるし、遅れるのが悪い。
諦めて、定刻どおりに到着したバスに乗り込む。
「神木先輩、こっちです」
声の方を向くと、佐々倉が自分の隣の席を指していた。
「え、なんで?」
「これはただのルーティンなんで」
どれ?・・・人を指定したバスに乗せて隣の席に座らせるのがルーティンだとしたら、ヤバい奴に借りを作ってしまった。
佐々倉は何を言うでもなく、窓の外を見ている。俺すぐ降りるんだけど・・・まさか?
「着きましたよ、ここで降りるんですよね?」
案の定、佐々倉は俺と一緒にバスを降りた。これはまずい、家までついてこられるわけにはいかない。
「相談て何だ、ここで聞こう」
「僕と付き合ってください」
「・・・今なんと?」
「ぼ、く、と、つ、」
「いや聞き取れなかったわけじゃない」
「借りは必ず返すと」
「言ったけども!
リターンが大きすぎない?
大体なんでそうなる」
「すごく気になる人がいる、
その人の事をもっと知りたいと思う、
その人の力になりたいと思う、
どういう感情だと思います?」
「・・・・・恋?」
「そういうわけなので」
「いやいやいや、何の気の迷いか知らんが、冷静になれって」
「僕は冷静ですけど、まあそういう反応になりますよね。
なので、友達からで結構です」
「友達って、俺は先輩だぞ」
「3月生まれですよね?僕4月です」
「いつ調べたの、怖っ」
「それに、恋愛も友情も年齢関係ないですよね?」
「それは、そうだけど・・・」
「・・・どうしても嫌だったら、言ってください。そしたら潔く身を引きます」
「・・・と、友達だな?」
「友達から、です」
「・・・借りの分は、返す」
「ありがとうございます。
あっついでに、神木さんて呼んでいいですか。たった一月違いですしね」
騙された、いい奴だと思ったのに。
遠くに次のバスが見えてきた。
「朝は何時のバスに乗りますか?」
「・・・7時37分」
「わかりました。じゃあまた明日」
いい奴・・・なんだよな。
◇
生まれて初めての告白は、大成功とは言えないけど、僕にしては上出来だった。まさか男にするとは、自分でも思ってなかったけど。その分、見た目とかじゃなくちゃんと人として好きになったと思える。
でも次の日。神木さんは、言ってたのと違うバスに乗るんじゃないかと、半分くらい思っていた。
初めて会った次の日に告白されて、しかも相手が同性なんて、普通に警戒する。避けられまくって、なかった事にされてもおかしくない。その時は、どうするな・・・。
学校の二つ手前なので、車内は学生でいっぱいだ。その停留所から、果たして神木さんは乗ってきた。乗降口から一番近い席に座っている僕に気付くと、目を反らしながらも、こっちに来てすぐ傍に立った。
「お、おはようございます。代わります」
「こんな状況で代わったら迷惑だろ。
荷物だけ置かせて」
「あ、はい・・・」
僕は自分でも驚くほど嬉しかった。
あぁ、この人やっぱりめちゃくちゃ優しくて、周りへの気遣いもできる人なんだな。
多少無下にされたくらいでは、諦めない事に決めた。でも、神木さんはきっとそんな事しないだろう。
二日後の朝まで、僕はそんなバス通学を楽しんだ。
昨日帰宅したら、足首が見事に腫れていた。昼間保健室に行こうかとも思ったけど、目視したらかえって痛みが増すと思ったので――熱っぽい時実際に高温を認識すると体調悪化する的な――帰るまで一度も見なかった。
一晩寝てる間に湿布してだいぶ腫れはひいたし、家でガチガチにテーピングしてきたので、歩くのも昨日ほど辛くない。
昼休みが終わる前にトイレに立つ。これも昨日は大変だった。「大きいほう」と思われたくないので個室に入るのを我慢し、万一よろめいて大惨事にならないよう神経を張りつめた。
無事に用を足し終え外に出ると、見覚えのある顔が待っていた。
「えっと・・・佐々倉だっけ?」
「神木先輩」
「え、なに?」
「今日もバスで帰りますか?」
「あー・・・そのつもりだけど」
「何時頃ですか?」
「4時くらい、かな」
「それじゃ・・・4時6分発のバスに乗ってもらえませんか
相談したい事があります」
「おぉ、わかった」
「ありがとうございます、失礼します」
言われたとおり4時6分発のバスに乗ろうと、少し早めにバス停に来たものの、佐々倉の姿はない。1分前になっても現れない。
おいおい、人に指図しておいてどういう了見だ、バスもう来てるんだけど。来るまで待ってたほうがいいのか?いや、別に話は今日じゃなくてもできるし、遅れるのが悪い。
諦めて、定刻どおりに到着したバスに乗り込む。
「神木先輩、こっちです」
声の方を向くと、佐々倉が自分の隣の席を指していた。
「え、なんで?」
「これはただのルーティンなんで」
どれ?・・・人を指定したバスに乗せて隣の席に座らせるのがルーティンだとしたら、ヤバい奴に借りを作ってしまった。
佐々倉は何を言うでもなく、窓の外を見ている。俺すぐ降りるんだけど・・・まさか?
「着きましたよ、ここで降りるんですよね?」
案の定、佐々倉は俺と一緒にバスを降りた。これはまずい、家までついてこられるわけにはいかない。
「相談て何だ、ここで聞こう」
「僕と付き合ってください」
「・・・今なんと?」
「ぼ、く、と、つ、」
「いや聞き取れなかったわけじゃない」
「借りは必ず返すと」
「言ったけども!
リターンが大きすぎない?
大体なんでそうなる」
「すごく気になる人がいる、
その人の事をもっと知りたいと思う、
その人の力になりたいと思う、
どういう感情だと思います?」
「・・・・・恋?」
「そういうわけなので」
「いやいやいや、何の気の迷いか知らんが、冷静になれって」
「僕は冷静ですけど、まあそういう反応になりますよね。
なので、友達からで結構です」
「友達って、俺は先輩だぞ」
「3月生まれですよね?僕4月です」
「いつ調べたの、怖っ」
「それに、恋愛も友情も年齢関係ないですよね?」
「それは、そうだけど・・・」
「・・・どうしても嫌だったら、言ってください。そしたら潔く身を引きます」
「・・・と、友達だな?」
「友達から、です」
「・・・借りの分は、返す」
「ありがとうございます。
あっついでに、神木さんて呼んでいいですか。たった一月違いですしね」
騙された、いい奴だと思ったのに。
遠くに次のバスが見えてきた。
「朝は何時のバスに乗りますか?」
「・・・7時37分」
「わかりました。じゃあまた明日」
いい奴・・・なんだよな。
◇
生まれて初めての告白は、大成功とは言えないけど、僕にしては上出来だった。まさか男にするとは、自分でも思ってなかったけど。その分、見た目とかじゃなくちゃんと人として好きになったと思える。
でも次の日。神木さんは、言ってたのと違うバスに乗るんじゃないかと、半分くらい思っていた。
初めて会った次の日に告白されて、しかも相手が同性なんて、普通に警戒する。避けられまくって、なかった事にされてもおかしくない。その時は、どうするな・・・。
学校の二つ手前なので、車内は学生でいっぱいだ。その停留所から、果たして神木さんは乗ってきた。乗降口から一番近い席に座っている僕に気付くと、目を反らしながらも、こっちに来てすぐ傍に立った。
「お、おはようございます。代わります」
「こんな状況で代わったら迷惑だろ。
荷物だけ置かせて」
「あ、はい・・・」
僕は自分でも驚くほど嬉しかった。
あぁ、この人やっぱりめちゃくちゃ優しくて、周りへの気遣いもできる人なんだな。
多少無下にされたくらいでは、諦めない事に決めた。でも、神木さんはきっとそんな事しないだろう。
二日後の朝まで、僕はそんなバス通学を楽しんだ。
