マルはどこに行っちゃったんだろう。

傘をさしながら手を伸ばすと、

ぽたっ──

水滴が指先にまとわりついた。

風が吹いて、鼻の奥がつんと痛む。

なんとなく、もうマルに会えない気がして胸がきゅっとなる。


学校についてもやる気が起きなくて授業も部活も集中出来なかった。



――



いつもと同じ帰り道。

雨はいつの間にか上がり、アスファルトの匂いが立ちのぼっていた。

「にゃーん」

振り返ると、マルが勢いよく飛びついてきた。

ぱちっ。

「優姫!! 僕のお気に入りの場所に連れてってあげる」

そう言って、マルは走り出した。

「ま、待ってー!」

地面はまだ濡れていて滑りそうだったけれど、
マルにまた会えた嬉しさがそれを上回って、
私は前を向いて思いっきり走った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

着いたのは、丘の上の小さな神社だった。

誰もいない、静かな場所。

「……わぁ」

空が、信じられないほど綺麗だった。

ピンク。
オレンジ。
青。
黒。

そのすべてが溶け合って、今しか見られない色になっていた。

「ね? すごいだろ」

マルが隣で誇らしげな顔をした。

「空って……広い。
 なんか、息が楽になるね」

「そう。僕もこの景色で嫌なこと忘れる」

そっと風が吹き、花の香りがふわりと漂う。

この花たちのように、一人ひとり違っていい。

一度きりの人生なら、悩んで、失敗して、笑って、それでいい。

私は深く息を吸った。

胸の奥があたたかく満ちていく。

「マル……ありがと」

「こちらこそ、ありがとう。

 …優姫は優姫のままでいいんだよ。
 たとえこれから辛い事があっても、その度にちゃんと立ち上がれる人だって、僕は知ってるよ!」

そう言われて横を見ると――

マルの姿は、もうなかった。

「……え?」

静寂だけが残る神社で、
ちりん、と小さく鈴の音が鳴る。

振り向くと、境内の片隅に立つ猫の銅像が、
ほんの少し、笑っていた。

胸の奥で、何かがすっとほどけていく。

「……ありがとう、マル。
 息の仕方を教えてくれてありがとう。
 少しだけど、自信ついたよ。
周りの目もあまり気にしなくなったし、"ひび"を入れながら
これからも強くなっていけそうだよ。
 勇気をくれて、本当にありがとう」

空はもう夜に変わりつつある。

でも、もうこわくない。




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diamond lily
ネリネ…また会う日を楽しみに

fin