キーンコーンカーンコーン。
マルに出会って、もう一週間が過ぎた。
あの日から、毎日ほんの少しずつだけど、胸の重さが軽くなっていった。
(ふぅ……今日は何事もなく終わった)
帰りのチャイムが、やさしく耳に残る。
最近は、授業で当てられても心臓が飛び出しそうになることは減ってきた。
まだ怖いけど、マルが「大丈夫だよ」って言ってくれた言葉が、ちゃんと私の中に残っている。
(今日もマル、いるかな?)
学校の門を出ると、少し冷たい風が頬を撫でた。
冬はすぐそこまで来ている。
「奮発して小魚いっぱい買っちゃった。マル喜ぶかな」
そう呟きながら、小さな紙袋を握る。
なんだか、それだけで少し気持ちがはずんだ。
空はもう夕暮れで、藍色に溶けていくみたいだった。
枯れた葉っぱを踏みながら、ベンチ、空き地――
マルがいそうなところを順番に歩く。
でも、どこにもいない。
(どうしたんだろ……)
鈴の音も、足音も聞こえない。
気づけば、空は真っ暗になりかけていた。
(もう帰らないと。
……明日にはきっと会えるよね)
そう自分に言い聞かせて、足早に家へ向かった。
紙袋の中の小魚が、カサカサと寂しそうに鳴った。
―――――――
「マルーーーー!!」
返事はない。
今日も、いない。
昨日から胸の奥でざわざわしていた不安が、また大きくなる。
(マルがいないと、私どうなっちゃうの?
また前みたいに、全部が怖くて苦しくて……戻っちゃうの?)
ぐるぐると、悪い想像ばかりが頭を回る。
「……にゃーん」
「……えっ、マル!?」
振り返ると、そこにはグレーの猫。
でも——瞳の色が違う。
「もう……どこに行っちゃったのよ……!」
思わず声が震えた。
━━━
相変わらず授業では当てられては間違え、
部活では返事の声が震えて、合奏でも上手くいかない時がある。
でもそれでも、以前の“何事にも向き合っていなかった自分”とは違っていた。
マルの言葉が、背中をそっと押してくれる。
ひとつひとつ壁を越えるたびに、前の自分から確かに変われている。
それでも——
(……何かが、足りない。)
そう、マルだ。
マルがいないと、胸の奥がスカスカする。
寒い冬の空気よりもずっと、寂しい。
「マル……会いたいよ。」
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crocus
クロッカス…心配
***
優姫が少しずつ前に進み始めた時、僕はそっとそのそばを離れた。
「——僕がいなくても、優姫はもう大丈夫なはずだよ。」
優姫は怖がりながらもちゃんと前に進んでいる。
泣いても、迷っても、それでも歩こうとしている。
その姿を見て、嬉しくなった。
だから僕は、優姫の負担にならないように、少し距離を置いたんだ。
……けれど、それでも。
どうしても優姫に見せたい景色がある。
あの場所の光を、優姫にも見てほしい。
