次の日、学校へ向かう足取りは、昨日よりほんの少しだけ軽かった。

部活の時間。今日も返事の練習から。私はマルの言葉を思い出す。

(殻は破るものじゃない。“ひび”が大事)

心の中でそっと三回唱えて、気持ちを整えた。

「成瀬!」

名前を呼ばれただけで心臓がきゅっと跳ねる。

だけど私は、いつもよりほんの少しだけ大きな声で返した。



「はい!!」



自分の声に、私が一番驚いた。

震えていたけれど、声を出せた。

「じゃあ、一人ずつ。優姫ちゃんから吹いてみて」



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「優姫ちゃん、いつもよりいいよ。その調子」

先輩にそう言われたのは初めてで、胸の奥がふわっと熱くなった。

今日一日で劇的に変われたわけじゃない。

でも、たしかに一歩進めた。

その事実がとても嬉しくて、早くマルに伝えたいと思った。

帰り道、どこからかチャリンと鈴の音が聞こえた。

あたりを見回すと、ベンチの上にマルがちょこんと座っていた。

「マル〜!!」

にゃー。

(そうだ、肉球に触れなきゃ)

そっと前足に触れると――ぱちっ。



「ずいぶん嬉しそうだな!」


そんなに顔に出ていたのだろうか。いや、心を読んだのかもしれない。

「うん!先輩に褒められたんだ。マルのおかげだよ。ありがとう! はい、小魚!」

マルは目を輝かせて小魚にかぶりつく。

「うまい!」

その声を聞くだけで、胸のあたりがじんわりあったかくなった。

「明日も"ひび"入れてこ」

私はポツリと呟いた。








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gerbera
ガーベラ…前進