私はドナルドの言葉の意味を、上手く理解出来なかった。幼い頃から私を守り続けてくれた執事エーリクは、この邸には居ない。それに、使用人たちにも暇を取らせたと言う。

 それは……何のために?

 にやにやと嫌な笑みを浮かべるドナルドは、私へとじりじりと距離を詰めて来た。

「何度も何度も、言わせるな。お前は俺と結婚するしかないのに、違う誰かと結ばれることが出来ると思うのか」

 まるで、性的に興奮しているかのような赤い顔に、浅くなっている呼吸。

「……っ!」

 誰もいない邸で、ドナルドが私に何をしようとしているかを悟り、持っていた本を床に落とした私は、自分の部屋へと戻るためにスカートの裾を持って走った。

 おそらくは、もう……玄関の扉も閉められて、私たちは二人で閉じ込められている。

「レティシア! それをしても、無駄なことはわかっているんだろう? お前だって、もう……社交界デビューも果たした、大人なんだから」

 私を追いかけて来る、嘲る声と大きな足音。

 いいえ。違うわ……閉じ込められたのは、私一人よ。ここでドナルドは、既成事実を作ってしまうつもりなんだわ。