まだ、ヴァレリオからの返事は来ていないけれど、賢い彼ならば私の今ある状況などを考えて、最善の手でイーサンに私の気持ちを伝えてくれるだろう。

 ……これが、私たち二人にとって、一番に良い道だと思う。

 私はオブライエン侯爵邸の図書室に向かうために、夕食前に廊下を歩いていた。滑らかな光沢を放つ廊下には、立派な絨毯が敷かれていて……そんな伝統ある大きな邸や、これまで永く続いた血筋を守れるのだって、私だけしか居ない。

「……レティシア」

 不意にねっとりとした低い声に背後から名前を呼ばれて、あまりの不快感に肌が粟立った。

「ドナルド」

 振り返ってそこに居たのは、ジョス叔父様の息子ドナルドだった。父と叔父と同じ……つまり、私と同じ栗色の髪に色素の薄い水色の目を持っている。

 背は高いけれど、だらしない日々の生活を示すような、小太りの身体。とても腹立たしい事に、私の父に良く似た顔。

 いつもならば、彼はこんな早い時間に邸に居ることは少ないのに……どうしたのかしら。

「レティシア……この前、男に送られて邸に帰って来たって?」