大きな後ろ盾があれば、少しの火遊びなど、すぐに終われば問題ないのかもしれない。

 いずれは別れてしまう事になっても、それでも、一生忘れられないような……煌めくような思い出を、彼と作ることが出来たかもしれない。

 それはそれで……その後の人生が喪失感に満ちたものになってしまうかもしれない。

 とにかく、私はすべての条件が整った、恵まれた人たちとは違う。

 私が居なくなってしまえば、ヘイスター王国創国から長きに渡って続いた、オブライエン侯爵家は断絶してしまう。先祖代々受け継がれた何もかもを、貴族位と共に返上することになるだろう。

 それは、どうしても出来ない。自分の幸せだけを考えて、イーサンに想いを告げることなど出来ない。

 近いうちにSSランクへ昇級を果たすはずの冒険者イーサンとは、すぐ会えなくなってしまうだろう。だから、私たち二人はほんのりと好意を抱いたままの関係で、それで終わってしまって良いと考えていた。

 ……けれど、それは出来なかった。

 どんな状況にあっても自分の気持ちを律することが出来るなんて、私は自分のことをあまりにも買いかぶり過ぎていた。