カタンとバルコニーから音がして、反射的にパッとそちらの方向を見たけれど、しんと静まり返り何かが風で動いただけのようだった。

 今夜もここへと、やって来るはずの……イーサンでは、なかった。

 そう思ってガッカリしてしまっている自分に気が付き、はあと大きくため息をついた。

 イーサンは、素敵な男性だ。彼は聖騎士で精悍で凜々しく整った容姿を持っているし、誠実で泣いている私を放っておけないほどに心優しい人だ。

 これで、心惹かれるなと言う方が難しい。

 ……けれど、私は彼とは結婚することは出来ない。これは、決定事項だった。

 道楽で冒険者をしている彼が、どこかの国に仕える優秀な騎士だとしても、ヘイスター王国でオブライエン侯爵家を継いでくれる男性でなくてはいけないから、恋に落ちても結婚は出来ないのだからどうしようもない。

 私自身がそこをわきまえていたなら、素敵な男性に憧れているだけで終われるはずよ。きっと。

 必要以上に意識することは、避けなければ。

「……それにしても、遅いわ。何かあったのかしら」

 壁掛け時計の針が差す数字を見て、まだここに来ない彼を不思議に思った。