踊り終わってから近くの机に用意された飲み物で喉を潤していると、退場していく国王陛下の背中を見てイーサンは私に尋ねた。

「あ……そうね。そろそろ帰りましょう。イーサン。今日は本当に、ありがとう」

「いえいえ。これは俺たちの勝手な頼みを引き受けてくれたほんのお礼なので、どうか気にしないでくださいね」

 イーサンは私の手を引いて、誰かの侮りなど寄せ付けぬような堂々とした足取りで、会場の出入り口へと向かった。

 夜会は明け方まで付くけれど、まだ結婚していない貴族令嬢たちは、主催者がいなくなると帰る者も多い。

 イーサンは優しい。

 けれど、どんなに心惹かれても、彼に恋をしてしまう訳にはいかない。彼は初対面で泣いている私を見て、事情を聞きただ可哀想に思ってくれただけ。

 私は侯爵家の法定相続人で、世界を旅する冒険者の彼と結婚する訳にはいかないのだから。

 私は優しい彼に今ある窮地を救って貰って……けど、自分の幸せは、自分で掴むべきなのだわ。