「嫌だなんて……! けど、イーサンは忙しいでしょう?」

 私の腰を持って彼は、くるりと身体を回した。私自身でもどうやったのかわからないくらい、鮮やかな身のこなしだった。

 彼と踊ると一緒に踊っている私まで、ダンスが巧(うま)いように見えるだろう。

「俺たちは自由業みたいなものなので、明日の保証はない代わりに、時間や人には縛られないので……そのくらいはさせてください。レティシア様だって、毎晩夜会に出席されるわけでもないでしょう」

「けど、イーサン……」

 優しい言葉に泣きそうになった私は、彼にここまでして貰っても返せる何かがない。

 オブライエン侯爵家の財産は代理人として叔父にすべて握られてしまっているし、たとえ結婚して取り戻してもイーサンに金銭的な何かを返せるとしたら、かなり先になってしまうだろうから。

「いえ。レティシア様。セーブポイントは無作為に選ばれるにしても、俺たちもあり得ないことになってしまったという自覚はありますから。どうか、させてください」

 イーサンの緑色の目は、とても優しい。それに、優しすぎる言葉に、胸がきゅうと締め付けられるような気持ちになった。