夫となる人物を見付けて、爵位を受け継ぐまでは好奇の視線に晒されても、噂が落ち着くまで大人しくしていなくては。彼らもやがて飽きて、私を見ても面白くないと止めてしまうはずよ。

 私がオルランド様から誘われたとしても、その誘いを断ったのは事実なのだから……クラウディアだって落ち着けば、私がそんなことをするはずがないって、きっとわかってくれるはずよ。

 今は落ち着く時間が、必要なだけだわ。

「……はあ」

 我知らずため息が口からこぼれて、私は口を押さえて俯いた。

 誰にも恥じるような悪いことはしていないのだし、毅然としていなくてはと思うのだけど、やはり悪い状況の中に居ては胸に来るものがあった。

 早く早く、時間が過ぎてほしい……失礼にならない程度にここで時を過ごして、早くオブライエン侯爵邸へと帰りたかった。

「レティシア様」

 名前を呼ぶ声が聞こえた私は顔を上げて、ここに居るはずのない人の姿を見てから、目を見開いてしまった。

「まあ……イーサン? どうして?」

 そこに居たのは、イーサンだった。いつもの彼とは全く違う。黒い夜会服を着て、金髪は上げて撫で付けていた。