私たち二人は謝り合ってから、イーサンは首を横に振って微笑んだ。

 そして、これまで表情を動かすことのなかったイーサンの笑顔を見て、私の胸はドキンと大きく高鳴った。

「今夜は、俺も帰ります。レティシア様は、ゆっくり休んでください……また、明日の夜に来ます」

 そう言って手を差し出したので、頷いた私は手を重ねた。

 彼が小さく呪文を呟けば、辺りは虹色の光が満ちた。もし、彼らに何かがあっても『ロード』を使うことが出来れば、この時間に戻って来られる。

「おやすみなさい。レティシア様」

「おやすみなさい……イーサン」

 就寝の挨拶をしてからイーサンは一度外に出てバルコニーに出て出て行ったと思えば、もう一度扉を開けて顔を覗かせた。

「ここは、必ず鍵を閉めてください。夜は本当に、危険ですよ。この通り、誰かが忍んでここまで来ることは可能です」

「……はい」

 オブライエン侯爵邸には警備のために雇われている衛兵も数多く居るはずだけど、イーサンは彼らに見つかることなくここに居る。

 侵入者をまんまと見逃した警備の緩さを責めるべきなのか、イーサンの凄腕の冒険者としての能力の高さを讃えるべきなのか。

 複雑な気持ちになりつつ私が片手を振って返事をしたことを確認してから、彼は扉を閉めて暗い夜の中へ行ってしまった。