ジョス叔父様はお祖父様の私生児で、侯爵位の継承権は持たない。

 正当継承件を持つ直系の私が居なくなってしまえば、オブライエン侯爵家は断絶する。国王陛下より与えられた爵位の条件が記された勅許状には、そう書かれているからだ。

 ついこの前に社交界デビューをした私は、貴族社会で成人として認められた。あとは相応しい身分の結婚相手さえ見つかれば、叔父夫婦をこの邸から追い出すつもりだった。

 そうよ……そのつもりだった、けれど。

「あの……叔母様。このお話はまた次の機会にさせてください。私は今日は疲れているので……」

 それは嘘ではない。今日は本当に、色々なことがありすぎた。心の許容量一杯だった私は、小さな声で挨拶をしてから階段を上がりかけた。

「……ふん。うちのドナルドと、結婚するしかないのにさ」

 吐き捨てられた言葉に私は何も言わずに、足を動かして階段を上った。

 ……別に驚くこともない。これが私の日常。

 未来に絶望しないためには、彼らの言葉に無闇に心を動かさないようにするしかない。

 社交界デビューする年齢を迎え王家への拝謁を済ませ、貴族社会での成人として認められた私は、法定相続人としての条件をようやく満たすことが出来た。

 後は結婚相手さえ決まれば、終わりのない悪夢のようなこの生活から……抜け出すことが出来るのに。