「お帰りなさいませ。レティシア様」

 もう日が暮れて夜と言える時間になった頃、オブライエン侯爵邸まで辿り着き馬車の扉を開ければ、そこにはお父様とお母様が生きていた以前よりも、我が家に長く仕える中年の執事エーリクが待っていた。

 ……エーリクは、私の数少ない味方だ。けれど、彼はあくまで我が家に仕える使用人で、出来ることには限りがあった。

「ええ……叔父様たちは?」

 私は彼の手を借りて馬車から降り、窮屈な手袋を外し始めた。お行儀が悪いけれど、仕方ない。涙で濡れてしまって、乾くと小さくなってしまった。

「皆様、食堂にいらっしゃいます。レティシアお嬢様も、共に食事を?」

「……いえ。今日は疲れたから、後で軽食を部屋に運ばせて……私は着替えてすぐに眠ることにするわ」

「かしこまりました。では、そのように」

 エーリクは胸に手を当てて頷くと、私の指示を伝えるために足早に去った。