「……レティシアお嬢様!」

 応接室の扉が開いて執事エーリクの声がして、私は立ち上がって駆け寄り、背の高い彼へと抱きついた。私たちは主従の関係にあり、こういった親しい接触は慎むべきだとはわかっている。

 けれど、両親たちが亡くなってから、これまで私を守り続けてくれたのは他ならぬ彼だった。それは、叔父家族たちが彼のことをどうにか理由を付けて私から引き離したことからもわかることだ。

 中年と言える年齢となり白髪も増え始めたエーリクも、オブライエン侯爵邸へと帰って来るまでにある程度の話を聞いていたのか、目に涙が浮かんでいた。

「エーリク……ありがとう」

「お嬢様……ああ。お労しい。申し訳ございません。あの悪辣な代理人が、オブライエン侯爵家にとって致命的な契約違反を引き起こそうとしていたので……いいえ。それは、言い訳にはなりません。オブライエン侯爵家にとって一番に大事な存在は、継承権を持つお嬢様ですのに」

 エーリクは眼鏡の中で、涙を流していた。彼が私の前でジョス叔父様の事を『代理人』と呼ぶのは、かなり前のことからだ。

 未成年の私のことがあるので彼に従わねばならなかったけれど、それを良しとしていなかったのは呼び方からもわかる。

「大丈夫よ。エーリク。聞いているでしょう。私は彼に助けて貰ったの……イーサン・ランチェスター。ランチェスター辺境伯の後継ぎなのよ」

 私は応接室で話していたイーサンを紹介した。彼は立ち上がり、私たちを見ていた。今は冒険者の姿ではなく、貴族らしい質の良い服を着ていた。