まるで、時がそこだけゆっくりと流れているかのようだった。私は目に映るものを、信じられていない。

「……は? 誰だ。お前は! 不法侵入だぞ!」

 イーサンの存在に気が付いた半裸のドナルドが、近付いて来る彼へと怒鳴った。

「殺してやる」

 そう呟いたイーサンは迷うことなく、ドナルドを殴った。そして、床の倒れた彼の身体の動きを片腕で封じ、何度も殴りつけていた。

 私は目の前の光景が、本当に信じられなかった。

 イーサンが、助けに来てくれた。そして、床に倒れているドナルドは、私をもう傷つけることは出来ない。

 そして、あまりに信じがたい展開が起こりぼんやりとしていたけれど、私ははっとしてこのままではイーサンが何度も殴りつけ倒れたまま、言葉も発さなくなったドナルドを殺してしまうのかもしれないと思った。

 ドナルドは傍流だとしても、貴族なのだ。

 貴族を殺したとなれば、異国の冒険者である彼は、理不尽な目に遭ってしまうかもしれない。

「イーサン! ……待って」

 私が彼の背中に抱きついたら、ようやくイーサンは我に返ったようにして動きを止めた。