涙に滲んだ視界の中に、バルコニーに続く扉が見えていた。

 たとえ、それが私に会いに来るためではないとわかっていても、不思議な緑色の目を持つイーサンが来てくれるようになって嬉しかった。

 今夜、もし彼が来てくれても……私はきっと会えないと思う。

 ドナルドが手首を掴んで乱暴に引っ張っている間も、私はぼんやりとあの扉を見て居た。

「ふん。騒がないようになって、面白くない……父上も母上も、お前が社交界デビューして、求婚者を募るようになったら、こうすることに決めていたんだ……人の心を折る一番良い方法は、希望を見せてそれを打ち砕くことだ。俺たちに、もう二度と逆らえなくしてやる」

 ……そうなのか……私が、誰かと出会っても、結果はこうなっていたのか。

 それでは、私の考えていたこと、すべては何もかも無駄だったのかもしれない。

 私をオブライエン侯爵家の財産を手に入れる方法としか思わない、叔父たちから逃げられるかもしれないなんて、そんな儚い幻想は……。

 何もかもすべて諦めかけた、その時に……扉は開いた。

 イーサンだ。

 走って来ていたのか、彼は息を荒げていた。そして、私の手を掴んで引き摺るドナルドに気が付いて、目を大きく見開いた。