……その視界には、バルコニーに続く扉が見えた。

 ここ最近はあの扉を見つめて、イーサンのことをいつも待って居た。毎夜、私の元へと彼はやって来る。役割を果たすために。

「イーサン……」

 助けて……私は自分勝手で、考えが甘くて、これまでにいつも誰かに助けてもらえていたから、きっとこれからもそうだと思って……私をすぐに喰らうことの出来る野獣と、共に暮らしていたのに。

「やだ……イーサン」

 涙がこぼれた。あの人以外に、触れられたくない。

 自分から『来て欲しくない』と手紙に書いたのに、そう思ってしまった。自分勝手だと思って、より涙が流れてしまった。

 大きな足音をさせて近付いたドナルドが、倒れた私の手首を乱暴に掴んだ。けれど、彼のことを見たくなかった。

 これから自分のことを陵辱する男の人の姿なんて、見たくなかった。